元パンクロッカーで芥川賞作家の町田康は、酒をやめる効能のひとつに「痩せること」を挙げている。町田の場合、8キロほど痩せたそうだ。そこで彼は女にもてるようになったのではないかと考え、いけてるおっさん感を漂わせつつ、人の集まるところに出かけ、気障なポーズをとったり、ジョークで人を笑わせるなどしてみるのであった。

「そうしたところに顔見知りの女が近づいてきた。早くも効果が現れたのか!と驚いているとその女は眉を顰めて言った。

『暫くお目にかかりませんでしたが……、どこかお悪いんですか?』

『ぎゃん』

私は一声哭いてその場から逃げ帰った。私は、私くらいの年齢になると痩せても、痩せて美しくなった、と思われるのではなく、患っている、と思われるのが普通である、ということを忘却していたのである。」( 町田康『しらふで生きる 大酒飲みの決断』幻冬舎)

僕もこのところ「痩せたね」と各方面から言われる。今週、テレビ東京のニュースモーニングサテライトに出演した際には、ライトグレーのスーツを基調にモノトーンですっきりまとめた装いだったせいもあるのか、普段より多く「痩せましたね」の声が寄せられたが、その大半が町田に対するものと同じく、「どこかお悪いんですか?」というものであった。そして、決まってこう付言されるのであった。

「いつもと違って弱気だったので」

僕が弱気を言うと、どこか具合でも悪くなったのか?と思われるようである。しかし、この状況で強気になれというほうが無理だろう。僕は最近、ずっと弱気を唱えている。3月にストラテジーレポートで「目先ピーク」と書いて以来、一貫して弱気である。

ファンダメンタルズが悪い時に株価も冴えないのは当然

TOPIXベースで半数近くの企業が決算発表を終えた現在、その根拠がようやく目に見える形になってきた。グラフは日経平均の予想EPS(1株当たり純利益)と日経平均株価の推移を示したものである。

出所:Quickデータから筆者作成

予想EPSは3月早々にピークをつけ、株価のピークは3月22日につけた4万888円だ。予想利益が先行する恰好でピークアウトして、株価がそれを追って目先の天井を打ち、それ以降は右肩下がりの展開となってきた。日本企業の利益見通しが低下基調となるのに平仄を合わせて株価も弱含んでいるのが見て取れる。きわめて真っ当な株価の足取りである。

だから僕はこの流れを悪いことだとは思っていない。ファンダメンタルズが悪い時に株価も冴えないのは当然である。この状況でむやみやたらに株価が上昇したりするとすれば、そちらのほうが不自然であり不健全な株高ということになるだろう。下がるときには素直に下がる。休むも相場だ。ここでちゃんと調整しておけば、次の上昇サイクルではしっかりとupward(上向き) の流れに乗れるだろう。ここは堪え時と思うべき局面である。

株価が高く、売れる局面では売っておくのは得策

では、いつ反転のきっかけをつかめるだろうか?5月22日のエヌビディア[NVDA]の決算に期待する声が多い。しかし、過度な期待は慎んだほうがよい。エヌビディアの決算はおそらく良好なものになるだろう。だが、投資家の高い期待を超えるほどのものが出なければ株価は売られる可能性が高い。そして投資家の期待が相当高くなっている今、それを超えるのは難しいのではないか。

よって投資スタンスとしては慎重姿勢を維持したい。株価が高く、売れる局面では売っておくのが得策と考える。