◆この週末、世間の耳目は「北」に集まった。土曜日の新聞各紙1面コラムはそろって北陸新幹線開業の話題。だが、その土曜日、僕らはもうひとつの「北」、 東北にいた。マネックス全国投資セミナー今年度の有終の美を飾りに仙台にやってきたのである。新幹線開業にわく北陸はお祭りムードのようだが、仙台も大勢 のひとで沸きかえっていた。第3回国連防災世界会議が仙台市で開催されるのである(14~18日まで)。200近くにのぼる国・地域から首脳・閣僚らが参 加する大規模な国際会議だ。そのためホテルはどこも満室。会議の参加者やそのスタッフ、迎える側のボランティアや催し物で仙台の街は活気にあふれていた。

◆東北に関するニュースでは各紙が1面写真付きで報じた記事がある。福島県大熊町の中間貯蔵施設建設予定地に汚染土が初めて搬入された。初日に搬入された のはフレコンバッグと呼ばれる袋に入れられた、わずか12立方メートル分。東京ドーム18杯分ともいわれる汚染土をいつ運び終えるかの「工程表」は示され ていない。保管期間は最長30年としているが果たしてそれで済むのか。国と地権者との用地交渉も難航している。将来の県外最終処分については目途すらつか ない。課題はなお山積している。

◆15年ぶりの高値に沸く株式相場。市場のムードを明るくしている材料のひとつが、大手製造業を中心に広がる賃上げの動きだ。しかし、アベノミクス が始まる前から上昇していたものがある。建設作業員の人件費と資材価格である。前者は人手不足によるもの、後者は円安等が原因だからむしろアベノミクスの 負の側面である。そのあおりを受けているのが被災地での住宅の復興である。道路や鉄道などの交通インフラの整備は進んでいるが、住宅や学校の再建は遅れて いる。主要国道の復旧率が99%なのに対して、災害公営住宅(復興住宅)は計画の16%しか完成していないという(毎日新聞)。

◆北陸新幹線の開業も15年ぶりの株高もめでたい話には違いない。しかし、まだまだ東北は多くの問題を抱えていることを改めて意識しなければならな い。大きな会議が開かれるときだけ、3・11から◯周年のときだけ、「北」に目を向けるのではいけない。汚染土も住宅も、日々、そこにある問題である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆