2022年10月と同じ状況=5年MAかい離率

日銀が公表した9月の円の実質実効レートは72.38となり、過去最低を更新した(図表1参照)。実効レートとは、円の総合力を示す指標で、それを物価調整したのが実質実効レートだ。

【図表1】円の実質実効レートと5年MA(1995年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル/円で見ると、まだ2022年10月21日に記録した151.9円という円安値更新に至っていないものの、実質実効レートで見ると、2022年10月の73.7という安値を、すでに2023年8月から更新、新たな円安値圏に突入していたことになる。この背景には、対米ドルでこそ、まだ2022年の円安値更新とはなっていないものの、対ユーロなどクロス円では軒並み、2022年の円安値を大きく更新したということがあるだろう。

この円実質実効レートには、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を2割下回ると循環的な円安が終了するというパターンがこれまで確認されてきた(図表2参照)。上述のように、米ドル高・円安、そして円実質実効レートも、2022年10月で円安一段落となったが、この時の円実質実効レートは5年MAを21.3%下回っていた。以上のように見ると、2022年10月の円安一段落は、円の実質実効レートが5年MAを2割以上下回ると循環的円安が終了するという過去のパターン通りだったようだ。

【図表2】円の実質実効レートの5年MAかい離率(1995年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2022年10月の円安一段落は、客観的には日本の通貨当局が円安阻止介入を続ける中で、米インフレ・ピークアウト観が広がり、米金利上昇が一巡したことで実現したという理解が基本ではないか。ただし、円の実質実効レートからすると、すでに循環的円安は限界圏に達しており、その中で円安阻止介入や米金利の上昇一巡は、円安終了の「きっかけ」に過ぎなかったかもしれない。

円安終了への条件は、すでにきっかけ待ちの状況か

そんな円の実質実効レートは2023年9月、5年MAを21.3%下回った。要するに、2022年10月に円安が一段落した時と同じ程度に、すでに9月の段階で5年MAを下回っていたわけだ。以上のように見ると、実は9月頃から、円安は「きっかけ」があればいつ終ってもおかしくない状況が続いている可能性があるのではないか。

今週に入り、米ドル高・円安が150円を大きく上回り始め、円安阻止介入との攻防劇への注目が高まってきた。この円安は、日米の金融政策の方向性の違いが主因なので、特に日本の金融緩和が変わらない限り、介入で円安を止めることは無理だろうと言う声も少なくない。

ただし、事実として日本の金融緩和が続く中でも、2022年10月に米ドル高・円安は151円で一段落すると、その後一時127円まで大幅な米ドル安・円高が起こった。これは、これまで見てきたように円安が循環的な限界に達していたと考えることにより腑に落ちるのではないか。

これまで見てきたように、円の実質実効レートと5年MAの関係を見ると、最近にかけての円安は再び循環的限界圏に達している可能性がありそうだ。そうであれば、円安阻止介入や米景気減速に伴う米金利低下などの「きっかけ」があれば円安はいつ終ってもおかしくない段階にあるのではないか。