認知症になると、銀行や証券会社の口座が凍結されてしまい、家族であっても預金が下ろせなくなったり、株式や投資信託の売却ができなくなったりします。介護施設の入居に必要な一時金や病院に支払う費用など、まとまったお金が必要な際に、口座が凍結されてしまうと困ります。

私自身も、認知症の祖母が入院し、手術代が必要になったとき、祖母は銀行口座がどこにあるのかさえ分からない状態でした。孫の私はどのようにして祖母の口座を探し、お金を引き出すことかできたのでしょうか。

入院費など多額のお金が必要、しかし認知症で銀行口座を思い出せない…

重度の認知症だった祖母は、自宅で倒れて救急搬送されました。検査の結果、倒れた原因は子宮頸がんで余命半年との診断でした。祖母の介護をしていた母も認知症の症状が見られたため、孫の私が祖母の面倒を見ることになったのです。

がんの手術費用や入院費など、多額のお金が必要になったのですが、祖母は自分の銀行口座がどこにあるのか、いくら預金があるのかを全く覚えていませんでした。しかし私は、小さい頃に祖母から何度も言われた言葉を覚えていました。「葬式代くらいは残してあるから、何かあったらそこから使いなさい」。

祖母の言葉をそのまま信じるなら、手術費用は祖母のお金で賄えるかもしれません。しかし、祖母にいくら聞いてもお金のありかは分からないので、当面は私が手術費用を立て替えることにしました。

がん相談支援センターで教えられた成年後見制度

祖母の介護をしていた母なら、銀行口座がどこにあるかを知っているかもしれない。認知症を発症したとはいえ、まだ軽度だったので質問してみると、想定していなかった答えが返ってきました。「通帳にバツ印がついていたから、全部捨てたわよ」

古い通帳でも、取引銀行を見つける手掛かりになったのに…。打つ手がなくなった私は、病院内にあったがん相談支援センターへ行きました。家族としてやるべきことを相談したのですが、そこで母が通帳を捨ててしまった話をしたところ、成年後見制度なら何とかなるかもしれないと教えられたのです。家庭裁判所(家裁)へ行くといいと言われ、すぐに向かいました。

成年後見人に選任され銀行口座を探し当てる

家裁で分かったのは、私が成年後見人になれば、祖母の銀行口座を探し、財産管理ができるということでした。

家裁から成年後見人として選任された私が最初に行ったことは、祖母の銀行口座を探すことでした。実家の近所に4つあった金融機関のうち、祖母宛てに届いた銀行からの郵便物の記憶を頼りに訪問。2ヶ月ほどかかりましたが、銀行口座をすべて探し当てることができました。

その後、家裁に相談し、これまで立て替えていた手術代や入院費を祖母の口座から引き落として、私が立て替えたお金はすべて戻ってきました。

なお、私が家裁に申立てを行った2013年当時は、親族が成年後見人に選任されやすかったのですが、その後、親族によるお金の不正利用が増え、次第に専門職後見人と呼ばれる弁護士や司法書士などが、成年後見人に選任されるようになっていきました。

金融機関も認知症への対応スタート、元気なうちから利用検討を

父が悪性リンパ腫で入院した際も、急にお金が必要になりました。父は認知症ではなかったのですが、ICUに入っていたため、動くことはもちろん対面で話すこともできませんでした。

そこで父の部屋にあった書類を調べて、取引先の金融機関の手掛かりになりそうなものを探したところ、株式の取引残高報告書が出てきました。保有銘柄から現在の株価を確認したところ、2倍近い含み益がありました。これで父の入院・介護費用は心配しなくていいと思ったのですが、すぐに別の取引残高報告書が見つかり、すべて売却済であることが分かったのです。

成年後見人として祖母の財産を管理したとき、家裁は一貫して祖母の資産を守ろうとしていました。もし祖母が株式を保有していたら、株価下落による資産の減少を食い止めるために、売却を指示されていたかもしれません。しかし家族としては、家裁の指示ではなく、自分たち自身の判断で株式を売却し、その利益を介護施設の入居一時金などに充てたいと思うのではないでしょうか。

認知症の方が増加するにつれ、また、成年後見制度の使いにくさが指摘される現状もあり、金融機関の対応も以前とは変化してきています。もし家族が株式を保有しているようなら、元気なうちからこうした各種サービスの利用を検討しておくとよいでしょう。