◆世界の市場関係者が固唾を飲んで見守ったジャクソンホールでのパウエル議長講演は無難に終わった。それを受けた市場の波乱はなかった。古くはニクソン・ショック、イラクのクエート侵攻、ロシア危機とロングターム・キャピタル・マネジメントの破綻、パリバショック、S&Pによる米国債格下げなど過去を振り返れば相場の波乱要因となった大きな出来事が8月に起きてきた。それらに比べれば今年のフィッチ・レーティングの格下げなどは小さなイベントだった。

◆2023年の8月は「ショック」と言えるほどの事件はなかった ‐ と、片づけるわけにはいかない。大きな事件があった。この夏の暑さだ。東京だけでなく全国的に猛暑日の日数は観測史上最多を記録。日本だけでなく世界中が熱波に襲われ、その影響で異常気象が各地で観測されている。マウイ島の山火事以外にもカナダなどでも山火事が発生しているほか、ハリケーン、豪雨、干ばつなどの被害が多くの地域で起きている。地球の平均気温はおよそ12万年ぶりの最高気温を記録したとの研究結果もある。グテーレス国連事務総長は「地球温暖化から地球沸騰化へ」と警告した。これはもはや「ショック」と言える「事件」だろう。

◆もはや気候変動対策は待ったなしだと誰もが痛感した夏であったろう。しかし、投資の世界に限れば環境対策には逆風が吹いている。ESG投資に反対する声が高まってきた。その先鋒であるデサンティス・フロリダ州知事はブラックロックが運用していた州の資金20億ドルを引き揚げた。ESG投資の旗振り役だったブラックロックのラリー・フィンクCEOはESGという用語をもう使わないと述べた。「背に腹は代えられぬ」というわけではなかろうが、非常に込み入った状況になっているようだ。

◆ESG投資を批判する政治家は「ウオーク・キャピタリズム=(社会正義に)覚醒した資本主義」だという。環境対策は重要だが、それは投資でなく政治の役割だという主張だ。2021年に著書「Woke, Inc(社会正義に目覚めた企業)」を出版し、反ESG派の論客として注目を集めるようになったのがビベック・ラマスワミ氏だ。米共和党は先週23日、来年の大統領選指名争いに向けた候補者による初の討論会を開いた。そこでデサンティス・フロリダ州知事らを抑え、もっとも存在感を示したのがラマスワミ氏だ。今後大統領選が佳境に向かう過程では、反ESGが大きくクローズアップされてくるだろう。万が一、米国の気候変動対策への取り組み姿勢に揺り戻しがあれば、地球の環境にとって一大事である。その観点からも米大統領選から目が離せなくなってきた。