◆「日本でいちばん大切にしたい会社」にも選ばれた未来工業の創業者、山田昭夫さんが亡くなられたのはちょうど1週間前のことだ。同社は名証2部に上場する建築用電気資材メーカーである。

◆同社は「日本一休みの多い上場企業」と言われる。年間休日が約140日、年末年始は19連休、GWとお盆は10日間連続で休み。一日の労働時間は7時間15分。残業もノルマもない。それで創業以来赤字なし、最高22%、平均13%の経常利益率を維持してきた。

◆同社の従業員約800人はすべて正社員である。山田さんは、なぜ全社員が正社員雇用なのかと問われてこう答えていた。「ひとをコスト扱いしたくないから」。企業であれば、正社員、契約社員、アルバイトなど雇用形態を使い分けて人件費の管理をおこなう。それも重要な経営戦略である。しかし、未来工業にはそうした発想はない。

◆昨日の小欄で紹介したように、インターンの学生であっても優れた労働にはしっかりとした対価を払う企業もある。それはそれで素晴らしいが、それは「ひと」ではなく「労働」に対価を払うのであって、支払われるおカネはコスト以外のなにものでもない。「雇用」「労働」「対価」「コスト」とは一般にそういうものである。未来工業の発想が異例なのだ。

◆そんなユニークな未来工業、社名の由来は、山田さんが昔やっていた劇団「未来座」からとった。同社は1年後には創業50周年を迎える。だが50周年も永い未来へと続く、ほんの一里塚に過ぎないだろう。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆