◆今日、3月6日は二十四節気の「啓蟄」である。大地が温まり、冬眠をしていた地中の虫が春の陽気に誘われて穴から出てくる頃だ。朝晩はまだ寒いが、関東では先週、春一番が吹いて暖かい日があった。今週も気温は桜開花時並みの高さになるとの予報が出ている。季節は着実に変わっているが、さて、我が国の金融政策はどうか。日銀の執行部がこの春から新しくなる。新正副総裁のもとで金融政策の変更はあるか。内外の注目が高まっている。そうした中、「TIME FOR CHANGE(変化の時)」と題した白川方明・前日銀総裁が国際通貨基金(IMF)の季刊誌に寄稿した論評が話題を呼んでいる。
◆論文ではないので若干、説明不足のところもあるが、白川先生の見識の高さを感じさせる格調高いエッセーである。特に、日本の金融緩和がこれほど長期に及んだ理由についての洞察はまさにご慧眼である。それは、急速な高齢化と人口減少という構造的な要因による成長の停滞を、循環的な弱さと誤解してしまった結果であり、日銀の金融政策がより抜本的な改革が必要な構造的問題に対する応急処置となったと述べられている。この「応急処置」というアナロジーを僕なりに平易に読み解いてみよう。
◆景気は循環するものだから好況になったり不況になったりする。その加減を調整するものが、「財政」と「金融」の政策である。喩えるなら、景気循環の好不況は風邪みたいなものだ。放っておいてもじきに治るが、あまりに症状が酷いときは風邪薬で少し楽にする場合もある。その風邪薬が「金融政策」「財政政策」である。ただし、日本の病は風邪などではなく、基礎体力の低下・劣化が原因であって、風邪薬ではどうにもならない。時間をかけて免疫力を高め、代謝を改善するなど長期の鍛錬が必要である。白川先生はそのことを見事に喝破されたのだ。
◆このコラム「新潮流」では、僕が教鞭をとってきた青山学院大学のことに再三触れてきた。僕が教えるビジネススクール(ABS)は青山キャンパスの17号館で授業を行っている。その11階に教員専用のコピー室があって、よく講義の資料を印刷したりしたものだ。実は11階のそのコピー室の隣が、白川先生 - 青山学院大学特別招聘教授 - の研究室である。これまで一度もお部屋に灯りがついているのをお見かけしたことがない。一度、ご挨拶したかったがそれも、もう叶うまい。9年間、務めたABSを今年度限りで離れることにした。4月からは、新天地でまた教壇に立つ。私的な、非常に些末な話で恐縮だが、僕自身にとっても「変化の時」である。