黒田総裁が金利上昇を容認した理由とは?

1月23日に公表された2022年12月の日銀金融政策決定会合の議事録の中に、以下のような一節があった。

「ある委員は、本年春先以降、海外金利が急上昇し、わが国の金利にも強い上昇圧力が生じた局面でも、イールドカーブ・コントロールによって金利の低位安定が維持されたとの評価を述べた。この委員は、海外金利の上昇という外生的な要因で国内金利が大きく上昇していた場合には、わが国経済への大きな下押し圧力となっていた可能性があると付け加えた」。

この発言から分かるのは、2022年3月の会合で、日銀が10年債利回りに0.25%の上限を設定したのは、海外金利が急騰に向かうところとなったこの頃からの動きが、日本の金利の一段の上昇をもたらすことを回避するという目的もあった可能性だ。

実際、それまでの米10年債利回りとの関係を参考にすると、日銀が上昇を抑制しなかった場合、10年債利回りは1%程度まで上昇した可能性があっただろう(図表参照)。その意味では、「海外金利が急上昇し、わが国の金利にも強い上昇圧力が生じた局面でも、イールドカーブ・コントロールによって金利の低位安定が維持された」(議事録より)という評価はおかしくないと考えられる。

【図表】日米の10年債利回りの推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

こうした視点から考えると、2022年12月会合における10年債利回りの上限拡大の理由も違った見え方になるのではないか。米景気減速への懸念などから、米10年債利回りは2022年11月頃から低下傾向が鮮明になっていた。その意味では、「海外金利の上昇という外生的な要因で国内金利が大きく上昇していた場合には、わが国経済への大きな下押し圧力となっていた可能性がある」(議事録より)という状況は大きく変わり始めており、金利の上限を緩和しやすくなっていたということはありそうだ。

それにしても、海外金利と日銀の長期金利上昇抑制策との関係を、議事録の中で指摘していた「ある委員」が誰なのかはわからないが、かつて財務省の国際政策の責任者である財務官を担当し、国際関係への意識が強い黒田総裁自身も近い考え方だった可能性はあるだろう。

そうであるなら、2022年12月の日銀による10年債利回りの許容上限拡大は、一般に報道されたような黒田緩和転換の始まりということとも微妙に違うのではないか。実際に、この決定は黒田総裁も賛成していたが、それは自身も海外金利との関係などから納得していたのではないだろうか。

このように2022年12月の日銀会合の決定の理由についてこだわるのは、円金利上昇見通しが円高の行方も左右する大きな要因だからだ。「海外金利の上昇という外生的な要因で国内金利が大きく上昇」(議事録より)するといった状況が変わったことから10年債利回りの上限拡大に動いたなら、国内金利、すなわち円金利の上昇、その影響による円高にも限度があるとの見通しになりそうだ。