ハンドメイドと結びつく投資の世界　刺繍作家・小菅くみさん

マネックス証券が掲げるブランドビジョン「大切なものに投資をしよう」。そこには、投資の価値を儲けや利益だけでなく、それぞれの未来や夢を実現させるものへと進化させていきたいという思いが込められています。ブランドビジョンを通じて、自分にとって大切なものや好きなことに情熱を捧げる人々の“想い”や“人生観”を発信しています。

今回は、人気刺繍作家・小菅くみさんの活動に焦点を当てます。

かわいい動物、有名西洋絵画や偉人像のパロディ、食べ物など、小菅さんの刺繍作品は、どれもクスッと笑えるユニークな作風で刺繍アートの世界に新風を巻き起こしています。

20代で難病を患って長期入院していたとき、「時間を持て余した！」という理由で始めた刺繍。最初は刺繍でお金がもらえるとは思ってもいなかったそう。ところが、毎日のように通う大好きなサウナや、友人たちと交わす楽しいおしゃべりの間に思いついたアイデアを元に、心をこめて縫った刺繍作品は、出品すればたちまち売り切れるほど人気を集めるように。初の作品集『小菅くみの刺繍　どうぶつ・たべもの・ひと』（文藝春秋）も話題となりました。

100歳になっても油絵を続けている元気な祖母や、気の許せる友人たちと過ごす楽しい時間を大切にしながら、大好きな刺繍に打ち込む小菅さん。居心地の良い周囲との関係性、そしてサウナやウォーキングで得られる快適な日々が、ホッと和める作品づくりのモチベーションになっているようです。

「楽しいこと、そして心の余裕が私の人生のすべて」と語る小菅さん。事務作業などが苦手のためストレスを感じる確定申告は税理士に任せるとのこと。心身ともに快適な状態で過ごすためには、お金の余裕も必要だと考えています。

小菅さんのライフワークである刺繍をはじめ、さまざまな人が楽しむ個性豊かなハンドメイド作品など、趣味やアートの世界を考えたとき、どのような投資の機会が考えられるでしょうか。

刺繍や手芸といったハンドメイド作品は、注目度が高いｅコマースコンテンツ

刺繍や裁縫、手芸を支える繊維企業は、かつて日本経済を支える基幹産業としての役割を担っていました。日本の老舗繊維企業の中には、その技術力を炭素繊維や樹脂フィルム、自動車のブレーキパッドなどの製造に活かし、世界屈指の素材メーカーへと変貌を遂げた企業も数多くあります。

とはいえ、趣味や生活のたしなみとしての刺繍や手芸に使う縫い糸を生産する企業、ハンドメイド作品向けの材料を販売する手芸専門店チェーンなどは、今も健在です。刺繍・手芸関連企業の中には、大切なお客様でもある個人投資家に株式を長期保有してもらうため、株主優待制度を導入している企業もあります。

株主優待制度は、上場企業が個人投資家などの株主に自社商品や買物割引券などを贈呈する日本独自の制度です。日々の生活の中でよく利用する企業の株主になり、優待品をもらうことで、その企業を応援しています。また、企業に対して親近感も抱きやすいことから、投資初心者が株式投資を始めるきっかけにもなっています。

ハンドメイドの世界はインターネットと親和性が高い面もあります。今では、刺繍や手芸、アート作品やクラフトワークといった自分の作品を気軽にネット上で販売できるようになりました。「趣味がお金になる」という経験をこれほど簡単に達成できるようになったのも、ハンドメイドに特化したeコマースサイトや個人でも簡単に開けるネットショップ開業支援サービスが普及したお陰と言えるでしょう。

最近は、単に刺繍作品の販売だけでなく、縫い手と縫ってほしい人を結びつけ、「こんな刺繍が欲しい」「こんな作品を作れます」といったマッチングサービスやクラウドソーシング（※）を行うベンチャー企業も登場しています。
※インターネット上で不特定多数の人に対して業務を発注し、その対価を支払うサービス。

株式投資というと、株価が上がりそうな企業に投資するイメージをお持ちの方が多いかもしれません。しかし、好きな趣味や日々の衣食住に馴染みのあるビジネスを展開する企業をシンプルに応援したい、という思いも投資を始めるきっかけの1つになるのではないでしょうか。

自分が大好きで、大切にしているものに関する企業のことなら、その企業の魅力や業績、将来性について、考えるのも楽しいかもしれません。好きなもの、大切なものにお金をかけるのと同じような感覚で、好きな企業、自分がよく利用し、日々の生活に欠かせない企業に投資してみることが、投資に興味を持つ第一歩になり得るでしょう。

アートワークやハンドメイドが世界にもたらす変化

刺繍に限らず、アートワークやハンドメイド作品でつながるコミュニティはたくさんあります。好き、面白い、楽しいといったポジティブな感情で結びつく人々の交流は、世の中をより楽しく、より快適に変えてくれるでしょう。趣味だと思っていたものがお金になり、さまざまな人々と出会うことで、どのような価値観や市場が生まれ、投資のチャンスにつながるのでしょうか。

幸せ・豊かさ：

刺繍など趣味の世界での交流や作品との出会いが、感動や興味を生み、人生や社会に対する満足度を高める。

市場：

共通の趣味や共感する作品に関するコミュニティが生まれ、作り手と作ってほしい人をつなぐマッチングサービス市場が拡大する。

新しい価値観：

刺繍などアート作品から生まれる世界観や価値観が人々の共感を集め、新たなライフスタイルの創造につながる。

成長・発展：

特定の趣味やニーズでつながるSNS、eコマース、ネットショップが発展・進化することで、ネット上のコミュニケーションが活性化される。

未来を変える力：

好きなこと、楽しいことへのこだわりが、社会をより温かく充足感の高いものに変容させる。

ハンドメイドの世界を支える企業

ハンドメイドの世界を直接支えている企業には、刺繍糸や毛糸を作る繊維メーカー、手芸・刺繍グッズを販売する専門店や生活雑貨、DIY、アート作品の販売チェーン店などがあります。

インターネットの普及で、ハンドメイドに特化したネット通販を手掛ける企業も増加中です。ネットショップ開店支援サービスやクラウドソーシングの運営企業も、大好きな趣味や得意なスキルを活かして活動する人々を支えています。

・フジックス （3600）

高機能・高品質のミシン糸、手縫い糸、刺繍糸の消費者向け販売で国内シェア7割を占める縫い糸専業メーカー。ネット上に「そーいんぐ.com」を開設し、手芸関連のキャンペーンやイベント、教室を開催するなど、刺繍文化の普及にも尽力している。

・日本毛織 （3201）

編み物好きには「ニッケ」の愛称で知られる、1896年（明治29年）創業の老舗毛糸メーカー。学生服の生地販売が収益源。5月末に100株を1年以上保有していると、株主優待カタログによる特別価格販売のほか、クオカード1,000円分がもらえる株主優待制度も導入している。

・フェリシモ（3396）

ファッション、子供服、雑貨などの定期便通販を展開。刺繍やドール（人形）など手芸キット・手作り用品の販売サイト「couturier（クチュリエ）」も運営。同サイトでは、刺繍キットの定期便販売や人気作家とのコラボ企画商品も掲載され、日本のハンドメイド文化の活性化に貢献している。

他にも、フリマアプリのメルカリ（4385）、ネットショップ開業支援のBASE（4477）なども、手芸作品の販売・購入ツールとして活用されている。

上記のような企業の株式を購入するには、100株単位となるため、10万円以上の高額な資金が必要な場合もあります。ただ、1株単位で少額から購入できる単元未満株で取引できる場合もあります。

海外に目を向けると、270年以上の歴史を持つフランスの刺繍糸メーカーDMCなどが有名ですが、上場していません。その他、世界各国のハンドメイド作品を購入したり、自分の作品を販売できたりするマーケットプレイス企業としては、全世界で5,400万人以上のユーザー数を誇るエッツィ（ETSY）が有名です。

また、カナダ発eコマースの制作プラットフォーム企業・ショッピファイ（SHOP）のサービスを利用すれば、気軽にネットショップを開業でき、国内にいながらにして海外のユーザーにもハンドメイド作品を販売できます。ネット通販というとアマゾン・ドットコム（AMZN）が有名ですが、いまや、ユーザーの求める趣味やニーズによってeコマース市場は専門化・細分化され、世界中で多彩なサイトが運営されています。

今後は、ネット空間で世界的な人気を集めた刺繍作家が、現実世界でも一躍注目されるかもしれません。ネット通販やマーケットプレイス、ネットショップ開業支援企業は、「趣味がお金になる」「好きなことで生計を立てられる」といった、開かれた市場を生み出す重要な担い手になっています。

【図表】刺繍などハンドメイドに関連する企業