1998年は円安、今回は米ドル高

物価比較

1998年以来の140円を大きく超える米ドル高・円安を展開している(図表1参照)。ただ1998年と今回では、物価がほぼ正反対と言っても良い状況となっている。最近は、世界的なインフレの中で、日本も欧米ほどではないものの物価高への懸念が強まっている。一方で1998年は、その後日本において長期的デフレが展開するスタートとなった「デフレ元年」だった。

【図表1】米ドル/円の推移 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

円安は輸入物価の上昇を通じ、インフレを後押しする。このため、デフレが始まる1998年より、物価高への懸念が強い今回の方が、「悪い円安」との不満は強まりやすいだろう。

1998年の米ドル買い・円売りの理由

今回の米ドル高・円安は、上述のように世界的に本格的なインフレ局面を迎える中で起こっている。特に米インフレ対策でFRB(米連邦準備制度理事会)が積極的な利上げを続ける中で、それを受けた米金利上昇に連れた米ドル高が起こった。円安はこの米ドル高の裏返しといった位置付けが基本だろう(図表2参照)。これに対して、1998年の米ドル高・円安は、「日本売り」が主因と解説されることが多かった。

【図表2】米ドル/円と米2年債利回り(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

1997年頃から、大手証券、銀行などの経営破綻が相次いだ。こうした中で、日本経済への悲観論が急拡大し、円安も日本への悲観論を受けた「日本売り」の影響が大きいとの見方が広がった。

最近の場合も、ロシアによるウクライナ侵攻などをきっかけに、安全保障を米国に依存することの脆弱性などの観点から円を売ることはありそうだが、それに伴う「日本売り」が今回の米ドル高・円安の主役ということではないだろう。

為替介入

1998年にかけての米ドル高・円安局面は、途中から日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入出動となった。そして今回の場合も、2022年9月に、米ドル売り・円買い介入が実現した。

前者の米ドル売り・円買い介入の初動は、1997年11月だったので、米ドル/円の水準としては130円以下だったと考えられる。一方で、今回の米ドル売り・円買い介入は145円台だったと見られており、このような円安阻止介入の初動も、今回は1998年とは大きな違いがありそうだ(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と為替介入の関係(1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

なぜこんなふうに円安阻止介入の初動の水準に大きな差が出たのか。考えられる理由の1つは、円安のスタート水準の違いだ。1998年にかけての円安のスタートは1995年の80円。一方で、最近にかけての円安のスタートは2021年の102円。ただの偶然だろうが、両者ともスタートから40円以上円安となったところで最初の円安阻止介入が実現していた。

もう1つ考えられるのは、米ドル高・円安の理由。今回は米インフレ対策を受けた米ドル高が主役と見られているのに対し、1998年は日本売りに伴う円安が主役と見られていただけに、円安阻止への取り組みは早いものになった可能性はあっただろう。

為替相場水準の類似

以上見てきたように、1998年の米ドル高・円安と今回の米ドル高・円安では、違いがとても多い。1998年の米ドル高・円安は、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を3割上回ったところで終了となった。

そもそも、1980年以降の米ドル/円は5年MA±3割の範囲を基本的に循環してきた(図表4参照)。足元の米ドル/円も5年MAを+3割に近づいてきた。米ドル高・円安の理由などは違うものの、為替相場の水準としては1998年と大きな違いのないところで終わりが近づきつつある可能性は注目される。

【図表4】米ドル/円の5年MAかい離率 (1980年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成