CPIショックと円安阻止介入の関係

今週は、13日の米8月CPI(消費者物価指数)発表をきっかけに米ドル高・円安が再燃すると、1998年以来24年ぶりの円安阻止介入の可能性が現実味を増すといった具合に、目まぐるしい展開となった。そこで改めて、CPI発表と円安阻止介入の可能性が急浮上した関係について考えてみたい。

米8月CPI発表の前後で大きく変化したのは、米利上げ見通しだろう。21日予定の9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ幅は、それまでの0.5~0.75%といった見方から、0.75~1%に上方修正された。また、最終的にFFレートが引き上げられる水準も、それまでの4%程度といった見方から4%以上に、やはり上方修正の動きが広がった。

これは、米ドル/円の見通しを変える可能性のあるものだった。最近の米ドル/円と連動性の高い米2年債利回りは、基本的には米国の政策金利であるFFレートを参考に動く(図表1参照)。ということは、9月FOMC以降のFFレート見通しの上方修正は、米2年債利回りの見通しも上方修正させ、それを通じて米ドル/円の見通しの上方修正ももたらした可能性があった。

【図表1】FFレートと米2年債利回り (2018年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

FFレートが4%以上に引き上げられるなら、それを参考に動く米2年債利回りも4%以上に上昇する可能性がある。この間の米ドル/円と米2年債利回りの関係を前提にすると、米2年債利回りが4%以上に上昇するなら、米ドル/円は145円を超える見通しになる(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と米2年債利回り (2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そして145円を超えたら、次の目標はいよいよ1998年8月の米ドル高値の147円台ということになる。以上のように見ると、24年ぶりの米ドル高・円安の値更新の可能性が浮上したことに対して、日本の通貨当局も円安阻止行動具体化の動きを見せ始めた。

もっともその前から、円安阻止の米ドル売り・円買い介入の準備を始めた兆しはあった。9月8日、3ヶ月ぶりに開かれた財務省、日銀、金融庁の三者会合の終了後、神田財務官は、「あらゆる措置を排除せず為替市場で必要な対応を取る準備がある」と語った。

この三者会合が、3ヶ月前に発表した共同声明では、似たような文脈の表現が、「必要な場合には適切な対応をとる」だった。微妙だが、「為替市場で必要な対応」とは、素直に読むと為替介入になる。3ヶ月前になかったこのワードが今回使われたのは偶然ではないだろう。

私は9月9日付け為替デイリー「円安を巡る財務省と日銀の温度差」の中で、「財務省は円安阻止介入の覚悟を決めた可能性がある」との見方を示していた。CPI発表を受けて、24年ぶりの米ドル高・円安の値更新の可能性がさらに高まったことから介入の前触れ的な動きとされる9月14日の「レート・チェック」という一歩踏み込んだアクションに繋がったと考えている。

外貨売り介入の限度額イメージ

それにしても、円安阻止介入の効果については懐疑的な見方がまだまだ根強いようだ。主な理由は、以下の2つだろう。

1.米インフレ対策と逆行する米ドル安・円高方向への大きな誘導は基本的に無理

2.円高阻止と異なり、円安阻止は米ドルなど外貨の売却となるが、外貨準備などで保有している外貨は有限だけに、日本単独の円安阻止介入には自ずと限界がある。

いずれも、基本的にはもっともな考え方と思われる。ただ念のために、円安阻止の外貨売り介入の限度額についてイメージしてみよう。財務省の資料によると、1998年にかけて147円まで米ドル高・円安となった局面では、1997年11月~1998年6月にかけて断続的に米ドル売り・円買い介入が行われたが、介入額の累計は約4兆円だった。これは当時の外貨準備の1割程度に相当するものだった。

足元の日本の外貨準備は1兆米ドルを超えている。この大半を円安阻止に使えるわけではなく、上述のようにせいぜい1割とするなら1000億米ドル程度ということになる。以上からすると、日本の通貨当局が単独の円安阻止介入を本格化する場合は、最大1000億米ドル程度の原資を想定することになるのではないか。