行き過ぎた円安の「もう一相場」は?

日銀が公表した円の総合力を示す指標の1つである実質実効レートは、6月に59.16となり、この間の安値を更新、60の大台割れとなった(図表1参照)。これは、6月に入り米ドル高・円安が再燃したため。米ドル/円は、5月には126円台まで米ドル安・円高に戻したものの、6月には一気に2002年の米ドル高値である135円も更新、1998年以来24年ぶりの米ドル高・円安を記録した。

【図表1】円の実質実効レートと5年MA(1995年~)
出所:日銀とリフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

この円の実質実効レートを5年MA(移動平均線)からのかい離率にするとマイナス19.96%まで拡大した(図表2参照)。これまで、同かい離率が今回のようにマイナス20%前後まで拡大すると、円安は一巡するといったパターンがあった。そうした視点では円安は既に限界圏に達している可能性もありそうだ。

【図表2】円の実質実効レートの5年MAかい離率(1995年~)
出所:日銀とリフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

1995年以降で見ると、1998年8月(20.23%)、2007年7月(19.95%)2013年12月(21.95%)の3回は、同かい離率がマイナス20%前後で拡大一巡となった。それは、米ドル高・円安一巡のタイミングとほぼ一致していた(図表3参照)。6月の同かい離率がマイナス20%近くまで拡大したことで、米ドル高・円安は一巡してもおかしくない段階に入っている可能性がありそうだ。

【図表3】米ドル/円の月足チャート(1998年~)
出所:マネックストレーダーFX

ただ上述の3回のうち、2013年12月のケースだけは、米ドル高・円安は一服したものの、大きく米ドル安・円高に戻さない中で、約1年後に米ドル高・円安が再燃、同かい離率も2014年12月にはマイナス24.63%まで再拡大となった。これは、2014年10月、同かい離率がマイナス19.27%のところで、日銀が黒田総裁就任以降2度目となる大胆な金融緩和、いわゆる「黒田バズーカ2」に動いたことがきっかけとなった。

この「黒田バズーカ2」は、翌月に消費税再増税の政治決断が控えた中で、増税による景気悪化懸念を未然に回避する目的で行われたと見られた。経験的には、円安の限界に達していたものの、そこでさらなる円安の可能性の高い「黒田バズーカ2」に動いたことで、行き過ぎた円安が一段と拡大に向かったと考えられる。

現在の米ドル高・円安局面において、上述の「黒田バズーカ2」の役割を担う可能性があるのは、米インフレ対策の利上げだろう。経験的には円安は既に限界に達している可能性が高いが、米インフレ対策の利上げ次第で、行き過ぎた円安の「もう一相場」もありえる状況が続いているということではないだろうか。