米ドル高が続いています。7月13日に発表された米国の6月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比で+9.1%と予想を大きく上回る伸びとなったことで、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では1%の利上げが実施される可能性を織り込む動きが強まっています。
金利先高感が米ドル上昇を牽引していると見る向きもあれば、市場はその先のリセッション(景気後退)リスクを警戒し、原油などコモディティの手仕舞い売りに動いていることから「リスク資産のキャッシュ化」の動きが米ドル高をもたらしているのだ、と見る向きもあります。
金融市場は早くも景気後退シナリオも想定し始めており、米長期債利回りは低下圧力も強く長短金利が逆転する「逆イールド」が発生しています。
真っ先に利上げに踏み切ったNZドルが弱い
米国は2022年3月から政策金利の引き上げに動いています。一方で、ニュージーランドは2021年10月から利上げサイクルに入っており、今週7月13日のニュージーランド準備銀行(RBNZ)の会合で6回目の利上げを発表、政策金利を2.0%にまで引き上げています。
米国の政策金利は6月FOMCで1.75%に引き上げられましたが、ニュージーランドは米国に先行して利上げを続けているにも関わらず、NZドル/米ドルは2021年2月に0.7464ドルというコロナショック以降の高値を示現して以降1年半近くも下落トレンドが続いています。主要国で真っ先に利上げに踏み切り、地政学的にロシアからも遠いNZドルはなぜ弱いのでしょうか。
景気減速が著しいニュージーランド
ニュージーランドの景気は著しく悪化しています。GDP成長率、Q1は予想外に悪化し、前期比▼0.2%に沈みました。また、6月消費者信頼感指数は過去最低となりました。NZ住宅価格は6月末、前四半期比2.3%減とリーマンショック後の2009年以来最大の四半期下落幅となっています。
コロナ禍で1.4~1.5%だったインフレ率は2022年第1四半期に6.9%まで上昇しており、当局は景気が減速していてもインフレを抑制することを優先課題としています。2021年2月からのトレンドとなっているNZドル安はインフレを助長する要因となるため、利上げで通貨安を防衛しなくてはならない反面、金利上昇は景気をさらに悪化させてしまいます。
市場はすでに利上げ停止~利下げを予想
エコノミストは、NZ住宅価格は2022年10%程度下落し、2023年にはさらに下落すると予測しており、RBNZがタカ派からハト派シフトする日が近いのではないかと予想し始めました。
今週開催された6月会合でRBNZは「物価の安定を維持し、最大限の持続可能な雇用を支援するための急速な引き締めの継続は適切である」との声明を出しましたが、同時に「消費者物価インフレには短期的な上昇リスクがあり、経済活動には中期的な下降リスクが出現していることを認めた」と付け加えています。
8月の政策決定会合では、最新の経済見通しが発表されるため、政策スタンス変更がこの時に併せて行われるのではないか、と予想しています。
世界の中央銀行が参考とするRBNZの金融政策
コロナ禍の大規模緩和からいち早く利上げに動いたのはRBNZでした。また、今や世界の中央銀行の常識となった「インフレターゲット政策」は1990年にニュージーランドが最初に導入したものです。
つまりRBNZは金融政策の先駆者でもあるのです。そのRBNZが利上げを停止するのはいつなのでしょうか?また、利上げ停止の後に訪れるのは利下げの可能性です。今後も世界の中央銀行の政策がニュージーランドの後を追うことになるのではないか、とRBNZの政策転換には金融市場関係者から高い関心が寄せられています。
次はニュージーランドの第2四半期CPIに注目
7月18日にニュージーランドの第2四半期消費者物価指数(CPI)が発表されます(ニュージーランドは四半期に1度の発表)。
RBNZは8月の会合でも利上げすることを示唆していますが、インフレ率は利上げ幅とその後の政策スタンスに影響を及ぼす重要な指標です。インフレがピークアウトしているようならRBNZを始め世界の中央銀行の政策転換が近いとの思惑が世界のリスクアセットの下落に歯止めをかけ、米ドル独歩高の様相にも変化が出てくるかもしれません。