「行き過ぎた円安」は続くのか?

この1~2週間、米ドル安・円高リスクを試すような展開が目立ってきた。5月にかけて一気呵成に広がった米ドル高・円安、「怒涛の円安」は、131円台で終わってしまったのか、それともこれは単に一気に進んだ米ドル高の調整局面なのか。

私は、5月19日付で「予め考える米ドル高が終わる条件」というレポートを書いたが、その結論は、「米インフレ動向を受けた利上げ見通しが鍵」というものだった。その考え方は基本的には変わらないので、少しアプローチを変えて再確認してみたい。

まず、1米ドル=130円を超えた米ドル高・円安は、基本的には行き過ぎた動きの可能性が高いだろう。5月24日付レポート「2015年『黒田けん制』に近付いた円安」でも引用したように、円の総合力を示す実質実効レートの5年MA(移動平均線)かい離率は、経験的にマイナス20%前後で拡大が一巡してきたが、4月はマイナス18%以上に拡大した(図表1参照)。対米ドルだけでなく、総合的に見て円安が経験的な限界圏に達している可能性を示していると言えそうだ。

【図表1】円の実質実効レートの5年MAかい離率 (1995年~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

次に、米ドル/円について、2つの指標で見てみよう。米ドル/円の5年MAかい離率は、1980年以降でプラス20%以上に拡大したのは3回しかなかった(図表2参照)。足元の5年MAは110円程度なので、それを2割上回る水準は132円。その意味では、一時131円を超えた米ドル高・円安は、かなり「行き過ぎ」懸念が強くなっていたと言えそうだ。

【図表2】米ドル/円の5年MAかい離率 (1980年~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

それどころか、以下の指標との関係では、米ドル/円が変動相場制度に移行した1973年以降で、足元の米ドル高・円安は最も行き過ぎた動きになっていた可能性さえありそうだった。米ドル/円の実勢相場は、基本的に日米の消費者物価で計算した購買力平価を大きく超えられない状況が続いてきた。そんな購買力平価は足元で109円程度なので、130円を超えた米ドル高・円安は、かつてなかったほどそれを大きく上回ったわけだ(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と日米消費者物価購買力平価 (1973年~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

以上のように見ると、130円を超えた米ドル高・円安は、分析方法によって程度差はあるものの、基本的には行き過ぎた動きになっていた可能性があるといった点では一致していただろう。

ただし、相場が行き過ぎること自体は珍しいことではない。重要なのは、行き過ぎた相場の動きでも、それを正当化する関係の有無。今回の場合、それは日米金利差米ドル優位の拡大の可能性があった(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円と日米2年債利回り差 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

その日米金利を分解すると、金利差拡大は圧倒的に米金利上昇の影響が大きかったと言えるだろう(図表5参照)。そして、そんな米金利上昇は、金融政策を反映する米2年債利回りで見ると、2021年11月、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長がそれまでの「インフレは一時的」との見方を撤回し、インフレ対策強化に動いて以降が約8割といった具合に圧倒的割合を占めるものとなっていた。

【図表5】日米の2年債利回りの推移 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

以上のように見ると、行き過ぎた米ドル高・円安をもたらした主因は、インフレ対策の米金融政策ということになるだろう。そうであれば、行き過ぎた米ドル高・円安の終了は、まさにインフレ対策の米利上げ見通し加速がまだ続くのか、それとも変化するかが鍵になるのではないか。