ロシア軍がウクライナに侵攻して1週間が過ぎた。情報が錯綜するなか、停戦合意に至っていないことだけは確かで、相場も乱高下を繰り返す荒い値動きとなっている。ただ、この過程で明らかになったことがある。僕の口癖でもあるが、「物事には常に二つの側面がある」ということだ。

ロシアへの経済制裁で世界景気に悪影響が懸念される ‐ そうかもしれない。バッドニュースである。でも、それを反映して米国の長期金利が下がる。株式相場にとってもグッドニュースである。FRBのパウエル議長は3月のFOMCで25bpsの利上げを示唆したが、その前から市場の織り込みとしては50bpsの利上げ確率は0%となっていた。ロシア問題で景気が悪化すれば米国の引き締めペースが緩慢になる。人間には悲観本能があるので悪いことだけに目がいきがちであるが、物事には常に良し悪し二面ある。

市場の危惧はインフレだったが、ここへきて原油高がインフレ高進を助長しかねないとさらに懸念が高まっている。本日付の日経新聞「NY特急便/忍び寄るスタグフレーションの影」では、現在の原油価格急騰を、石油ショックでインフレと景気後退を招いた1970年代の危機になぞらえたバロンズの記事が紹介されている。ガソリン高などを通じて消費を直撃し、景気後退を招く懸念が強まっているという。そして、原油価格が1年間で2倍に上昇したのは1990年、2000年、2008年の3回で、いずれも景気後退を招いたという米調査会社データトレック・リサーチの共同創業者ニコラス・コラス氏の見解も載っている。

ちょっと待ってほしい。原油価格が1年間で2倍に上昇したのは1990年、2000年、2008年の3回で、いずれも景気後退になったのは事実だが、そこに因果関係はあるか?つまり、「原油価格が1年間で2倍に上昇した」から「景気後退」になったのだろうか。近年の米国のリセッションはいずれもバブル崩壊がきっかけである。1990年は商業用不動産バブルの崩壊、2000年はドットコム・バブル、そして記憶に新しい2008年のいわゆる「リーマンショック」はサブプライム・ローンによるクレジットバブルの崩壊だった。原油価格が上昇したのはバブル景気によるもので、あえて言うならそれは「結果」であり「原因」ではない。

確かに原油高はガソリン高などを通じて消費を直撃し、景気悪化を招くのは事実である。ただ、そうであればインフレの抑制にもなる。原油高はインフレを高める要因になるが、同時に需要を抑制する面もある。ミクロ経済学の教科書ではモノの価格は需要と供給で決まると教える。今回の高いインフレはコロナによる供給制約と、また同時にコロナによる需要拡大がもたらした部分が大きい。そこに今回のロシア問題が加わり、供給制約は新たな問題が生まれたが、それによって需要が低下する要因もある。従って、一時的にスタグフレーションのような状況が起きても継続はしないだろう。景気が悪化すれば需要も落ちてインフレも抑制されるからである。そうなればFRBの引き締めも過度に強いものにはならない。

景気にしても強過ぎる部分があるので(ISM等)、多少の減速は問題にならない。景気、インフレ、FRBの金融政策 ‐ それらがバランスよく収まる局面は年半ばに訪れるだろう。もうしばらく混乱は続くだろうが、少し目線を先に保つことが必要だ。

インフレについても足元の原油高で一層、悲観論が強まっているが、少し前まで構造的なディスインフレ論が主流だったことがすっかり忘れられている。その背景には米国のサマーズ元財務長官の「先進国の長期停滞(Secular Stagnation)論」などがあった。また、脱炭素の流れで、一時的には需給の歪みで資源価格が上がる場面はあっても、長期的に需要は減少するだろう。EVシフトでガソリンの需要が減ることがわかりやすい例だ。こうした構造問題がなくなってしまったわけではない。

いずれにせよ当面の焦点は原油価格の動向だろう。これについては次回、また触れたい。