近年社会科学の分野で注目されているテーマの一つに、経営者の国際性があります。数年前、カリスマ・デザイナーの故カール・ラガーフェルドが多くの国で活躍した経験を持つことに着目した学者らが、リーダーの海外経験が企業の創造性にプラスになることを実証しました。「海外での経験は深ければ深いほど創造力を高める。経験を積む場所や文化の距離も一定程度遠い方が望ましいが、遠すぎてもダメ」という、興味深い内容です。
これはファッション業界の実業経験の話ですが、海外との関わりが深い人物がイノベーティブな起業に成功している例は近年の米先端企業にも多くみられます。テスラのイーロン・マスクは南アフリカ出身ですし、グーグルの共同経営者セルゲイ・ブリン氏はロシア生まれ。メタのマーク・ザッカーバーグやアマゾンのジェフ・ベゾスは米国生まれですが、親の代は移民です。
国際性が創造性に影響を与える理由は完全にはわかっていませんが、異なるコンセプトを組み合わせる力が創造に繋がる、アイデアを世界展開することに長けている、などといったことが関係していそうです。
一方日本は、言葉や地理的な特性もあり、海外に触れる機会が少ない運命です。そのせいかどうか、日本企業の海外M&Aは成功例が少ないとされます。近年強化されているコーポレート・ガバナンスも、こうした環境を考慮してか、経営陣に求める“ダイバーシティ(多様性)”で、国際性はあまり求めていません。
ようやくオミクロン株に感染鈍化の兆しが見え始め、この2年間制約を受けていた海外でのM&Aや設備投資が堰を切ったように実施されるかもしれません。それらを生かせるかどうか…。鍵を握る経営陣の国際性に今後は特に注目したいと思います。