◆桜が満開である。花を愛で、旬の蛍烏賊や筍などを肴に純米吟醸を口に含む。日本に生まれて良かったと思う瞬間である。日本人として当たり前に日本が好きだ。だからこそ、最近露になっているこの国の醜態は心底残念である。政府のコロナ対応のまずさ、進まないワクチン接種、オリンピック委員会での老害のような発言。いったい、どうなっているのかと思う。

◆課題先進国である我が国の問題のひとつがコロナ禍で改めて浮き彫りになったIT、デジタル化の遅れだ。だからこそデジタル庁が創設されるわけだが、どのくらいのスピード感で我が国のデジタル化が進むのか心許ない。政府は新型コロナウイルスのワクチン接種を済ませたことを示す電子証明書を発行するそうだが、果たしてうまくいくのだろうか。いまだにマイナンバーカードの運用もうまくいっていないのに、である。

◆厚生労働省は健康保険証の代わりにマイナンバーカードを利用できるシステムについて、予定していた本格運用の開始を先送りする。顔認証付きリーダーにカードをかざすことで、患者がどの健康保険に加入しているかを確認する仕組みだが、カードをかざしても保険証に記載された情報と一致しなかった事例があった。保険者側のデータ入力に誤りがあったことが原因の一つだという。

◆えらくプリミティブなレベルの話だが、この国の様々な問題は案外そういうところに根ざしているのかもしれない。つまり、根本からシステム(デジタル的な意味だけでなく)が老朽化しているのだろう。ワクチン接種が進まないのも、オリンピック委員会で老害のような発言が問題になるのも、元をただせば日本的システムの老朽化が原因だと思う。

◆前述のワクチン接種の電子証明書のニュースを読んで最後に「え?」と思った。日経の報道によれば、あくまで海外渡航者の利用を念頭にしており「政府は国内での運用には慎重だ。Go Toトラベルを再開しても接種証明書の提示を要件に入れる予定はない」という。これを「慎重」というのだろうか。電子証明書を要件とすればITに弱い我が国のことだ、現場が混乱するのは目に見えている。そうなればGo Toも盛り上がらない。だから使わないということだと想像がつく。それは「慎重」と言わず「本末転倒」である。こういう発想がある限り、デジタル化など進むわけがない。

◆デジタル化というのは最新のIT機器を普及させれば解決する問題ではない。それらがきちんと機能する前提として古びたOS(しがらみ、既得権益や考え方も含めて)をアップデートする必要がある。一括アップデートのような妙案があるわけがない。時間がかかるのは仕方ない。でも、その時間を少しでも早くするのは僕らの意識の持ちようではないか。従来の方法と新しい方法と、どちらかを選ぶ場面に遭遇したら、意識的に新しいものを選ぶようにする。もちろん是々非々であるのは百も承知だ。でも、あえてそうしなければ前に進もうとする強い力は生まれない。古いものを捨てなければ変われない。この春に、日本人の多くにそういう意識を持ってほしいと思う。この国が好きならば。