FOMC会合で長期金利上昇を抑制する具体策を検討か

2月、米長期金利の上昇が市場を驚かせました。低金利の長期化を軸に株式市場ではグロース銘柄が上昇する流れが継続してきました。そのような中、市場金利の上昇に驚いたマーケットはFRB(米連邦準備制度理事会)が思ったよりも早期に引き締めに動かざるを得ないのではないかと警戒し始め、ハイテク銘柄で構成されるナスダック総合指数はトップアウトしたようにも見えます。

このまま市場の動揺があまりにも大きく、債券下落が続くようなら、FRBがオペレーションツイスト(短期債を売って長期債を購入する)など長期債利回り上昇を抑える政策を導入するのではないかという憶測が広がりました。

その中で3月4日、パウエルFRB議長は長期金利の急上昇に注視していると述べました。しかし、この動きを抑え込む具体策には踏み込まず、「物価は2%を大きく超えるインフレ期待を生むほどの水準にとどまることは確実にない」と語り、低金利政策の長期化を改めて示しました。

3月17~18日にはFOMC(米連邦公開市場委員会)が予定されています。金利上昇が止まらなければ、上昇を抑制する具体策の検討もあり得ると思われます。しかし現時点では、金利上昇を黙認している状況にあります。

黒田総裁は長期金利変動幅拡大を否定

一方、日本では、先週3月5日の衆院財務金融委員会で、日銀の黒田総裁が長期金利について「(変動幅を拡大する)必要があるとは考えていない」との見解を示しています(※)。この発言を受けて日本の長期金利は急低下しました。

とは言っても、日銀は長期金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)と呼ばれる金融政策を導入しているため、日本の長期金利はゼロ±0.2%に釘打ちされています。世界の長期金利の上昇圧力を受けて、日本の長期債利回りが0.2%に接近したため市場ではゼロ%からの乖離幅を±0.3%に拡大するのではないかという観測が広がりつつありました。しかし、これを否定したのです。

「ゼロ%からの乖離幅を0.2%から0.3%に拡大することを否定した」ということは、何を意味するのでしょうか。国債に旺盛な買い需要が発生し人気を集めれば、国債の価格は上昇しますが、利回りは低下します。金利が上昇するということは国債が売られ、額面価格が低下しているということです。そこで中央銀行が長期国債の買い入れ量を増やせば、金利が低下しますね。

すなわち、「金利が0.2%から0.3%に上昇することを容認する」ということは、日銀が買い入れる量が減る、つまり量的緩和政策が引き締めに向かうということを意味します。「日本が引き締めに動いた」となれば、これは円高のリスクにつながる事態です。黒田総裁はこのような憶測を明確に否定したのだと私は思います。

先進国の長期金利が軒並み上昇

実は上昇しているのは米国の長期金利だけではありません。新型コロナワクチンの接種開始によって、経済の正常化への期待が高まり、豪州、ニュージーランド、英国、カナダなど先進国の長期金利が軒並み上昇しているのです。ということは、日本と諸外国の金利差が拡大する傾向が強まっていると考えられます。そのことは、米ドル/円、クロス円の上昇にも繋がっています。

中国の景気回復とともに、原油や銅、非鉄金属、穀物などのコモディティが上昇基調となり資源国通貨が買われる展開となっています。その他、新型コロナワクチン接種のスピードが早いことが評価されて早期の経済正常化が期待されている英国のポンドの上昇も目立っています。

2021年は「コロナ禍からの正常化」がクロス円における物色テーマとなり、大きなトレンドを形成していくものとみています。

(※)3月8日に日銀の雨宮副総裁が「私自身は緩和効果が損なわれない範囲内で、金利はもっと上下に動いてもいいと思っている」と述べており、黒田総裁との温度差が浮き彫りになりました。3月19日の日銀の金融政策決定会合ではこれまでの政策の点検を行なうとしており、注目度が高まっています。仮に金利の変動幅を広げる決定があれば、円高圧力が高まりますので注意が必要となるでしょう。