定年前は退職の手続きや新生活の準備などに追われ、「あっという間に時間が過ぎてしまった」という方が多いようです。「仕事を辞めた後に時間があるから、面倒なことはそれからやろう」と思うのかもしれません。しかし、中には定年後に気づいたのでは遅過ぎる手続きもあります。そこで今回は、定年前に知っておくべきこと、やっておくべきことをご紹介したいと思います。

受け取り方によって金額が変わる退職金

近年、退職金制度を廃止する企業が増え、退職一時金の額も減少傾向にあります。しかし、間もなく定年を迎える50代後半の方はそれなりの退職金が期待できる“逃げ切り世代”と言えるでしょう。

退職金の受け取りは「一時金形式」、「年金形式」、「一時金・年金併用形式」などから選ぶことができますが、どれを選ぶかによって受け取る金額が変わってくることをご存じでしょうか。だからこそ、定年前に金額を確認する際は、自分にとって有利な受け取り方を決めておく必要があります。

一時金形式ですと退職所得扱いになり、退職所得控除の適用で勤続38年(大卒後60歳まで勤務)の方なら2060万円までは非課税となります。退職所得には、社会保険料もかかりません。

これに対し、年金形式の受け取りは企業や企業年金基金が引き続き運用を続けるため、受け取り総額は一時金形式より多くなるものの、受け取り開始後は雑所得として公的年金や確定拠出年金(DC)などと合わせて課税対象となります。そのため、とりわけ公的年金の受給が始まる65歳以降は税金や社会保険料の負担が重くなりがちです。

退職前後の大きな出費についての考え方

さて、定年を直前に控えた世代のお悩みとしてよく聞くのが、「定年後も住宅ローンの返済があるが、退職金で残債を一括返済したほうがいいの?」、「家のリフォームや車の買い替えなどは、定年前に済ませておくのがいいの?」といったお話です。

老後資金に余裕のある方や、今がリフォームや買い替えの時期に当たる方なら答えは「YES」です。しかし、それ以外の方には、定年前後の大きな支出はあまりお勧めできません。平均寿命から換算して30年ほどの長い老後を考えると、なるべく手元に現金を残しておくことが無難だからです。60歳以降は、お金のかかる病気や介護のリスクも高くなります。

とは言え、住宅ローン返済やリフォームなど退職後の比較的大きな出費については、いつ頃、どれくらいのお金がかかるのか、ざっくりとマネープランを立てておくと良いかもしれません(住宅ローンを「ボーナス併用払い」にしている方は、今のうちに「毎月払い」に変更した方が良いでしょう)。

その上で支払いに不安が残るのであれば、お金の専門家に相談するのも1つの方法です。早めの住み替えで住居費を減らす、ローン完済までアルバイトをするといった具体的な解決策を提示してもらえます。

定年後も2年間は会社の健康保険を任意継続できる

健康保険にも、定年後を見据えて知っておきたい制度があります。

日本は国民皆保険の国ですから、定年で会社の健康保険組合を脱退した後も何らかの健康保険制度に加入しなければなりません。多くの退職者の加入先が「国民健康保険」です。

しかし、会社の健康保険にも「任意継続」という制度があり、定年後2年間は加入し続けることができます。定年前は会社と折半していた保険料が全額自己負担になりますが、人間ドックの割引や保養所などお得な制度を引き続き利用できる場合もあります。希望すれば、定年前に任意継続と国民健康保険の保険料の試算をしてくれる企業もあります。保険料の水準がほとんど変わらないとしたら、付加給付の充実した任意継続を選ぶのがベターかもしれません。任意継続は退職日の翌日(資格喪失日)から20日以内の手続きが必要ですから、タイミングを逃さないようご注意ください。

会社で厚生年金に加入している方には、定年前に入念なメディカルチェックを受けておくことをお勧めします。万一この検査で病気が発見された場合、病気の「初診日」が厚生年金加入期間中であれば、将来この病気で障害1級や2級と認定されたときに2階建ての障害年金(障害基礎年金+障害厚生年金)を受け取れるからです。

現時点で身体に支障がなければ「障害年金なんて自分には関係ない」と思うかもしれません。しかし、例えば定年前の検診で糖尿病と診断された人が数年後に糖尿病性腎症で人工透析を受けることになったら、障害年金の支給対象になります。

過去の実績を見ると、がんや脳疾患、心臓病、緑内障や白内障、鬱病など様々な疾患の方が障害認定を受けています。「転ばぬ先の杖」で、セカンドライフのスタートを切るご自身の安心のためにも、受診しておくと良いでしょう。