◆同じものでも、正面から見るのと横から見るのとでは見え方が異なるのは当たり前である。だが、同じものを同じ方向から見ても、違うように見えることがある。例えば、だまし絵の多義図形で有名な「ルビンの壺」。白地に視点を合わせると向き合った人の顔に見え、黒地の図に合わせると壺に見える。多分、みなさんも見たことがおありだろう。

◆先週土曜日の日経新聞1面トップは、「緊急事態宣言で減収7割」。国内主要企業の社長を対象としたアンケートで7割近くが宣言期間中に減収になると回答したという。しかし、その内訳は「小幅な減収」が45%、「大幅な減収」が21%である(合計66%)。すると残りの34%は「減収にならない」と回答しているはずだ。その34%と「小幅な減収」と回答した45%を合わせれば79%である。視点を変えれば、ほぼ8割が「減収にならないか、なっても小幅なものにとどまる」と読むことも可能だ。

◆メディアの報道にはネガティブ・バイアスがかかっている。そのまま額面通りに受け止めるのではなく、ポジティブなところを見るようにしたい。同じものを見ても、ちょっとした視点の違いで受け止め方が変わるものだ。例えば、ペットボトルに水が半分入っているのを見て、「半分しか残っていない」ではなく、「まだ半分も残っている」と考えるように。それは視点というより気持ちの問題かもしれない。

◆コロナで世の中が大変な状況にあるのは間違いない。しかし、だからと言ってビジネスすべてが苦境というわけではない。日銀が先週発表した1月の地域経済報告、いわゆる「さくらリポート」では全国9地域のうち北陸や四国など3地域の景気判断を引き上げ、下方修正は北海道のみ。項目別に見ると、生産は全9地域で引き上げた。全地域の上方修正は09年10月以来およそ11年ぶりだという。

◆実は一般に伝えられるほど景気の実態は悪くないのかもしれない。米国のISM製造業景気指数は60を越えている。中国の2021年のGDP成長率は8%前後の高い伸びが予想されている。コロナ禍にあって暗く沈みがちな今こそ、明るい部分に目を向けよう。同じものを見ても気持ち次第で捉え方が変わる。ただ、これが水でなく、酒になると話は別だ。ボトルにワインが半分。酒飲みの性分としては、「ああ、あと半分しかない!」