米大統領選より、ワクチン完成への期待のほうがマーケットを動かす結果になっているようです。米製薬大手ファイザーが治験による感染予防効果が90%となったと新型コロナワクチン開発の成果を発表したことで、米ドル/円相場が猛烈な上昇となり、円売りが為替市場を席巻しました。
2016年の米大統領選では、「トランプ氏が米大統領になるわけがない」という事前予想に加え、「万が一トランプ米大統領誕生となれば株も米ドルも暴落する」という根拠のないコンセンサスが市場を支配していたため、予想しなかった結果に驚いた市場は、予想とは真逆の株高、米ドル高方向に大きなトレンドを形成しました。
この反省から今回は、市場があらゆるシナリオを想定していたためにサプライズがなく、大統領選挙ではマーケットは動きにくかったものと思われます。それ以上に、長く続いている新型コロナウイルス感染拡大による経済への悪影響がワクチン完成によって払拭されるという期待のほうがマーケットにはカンフル剤となったようです。
基本の考え方として、リスクオン相場ならドル安、円安です。では、ここから年末に向けて米ドル、円を売る反対側で、どの通貨を買うのが最も高いパフォーマンスを見込めるでしょうか。
貿易収支と為替相場
為替の変動要因として重要なのが貿易収支です。輸出入による為替取引は「売り切り買い切りの玉」で、先物市場の取引のように期限が来れば反対売買されるようなものではありません。そのままダイレクトに為替市場を動かします。
日本でも東日本大震災後の原発停止で化石燃料を海外から買わざるを得なくなったことで輸入が増え、輸出が減少したことで貿易収支が10兆円もの赤字となったことから、米ドル/円相場が猛烈に上昇したことがありました。
現在、本邦貿易収支は輸出入に大きな偏りが見られなくなったことから、米ドル/円相場が動きにくくなっているという側面があります。季節性を見ると、1月は正月休みで工場の稼働が止まり、輸出が停滞することから貿易収支が悪化する傾向が強いのですが、単月に終わるため、米ドル/円相場にはあまり影響していないようです。
貿易収支の季節性とNZドル
ここで私が注目しているのはNZドルです。
ニュージーランドの貿易収支には季節性サイクルが強く見られます。例年8月に赤字幅が拡大することが確認できます。9月以降は赤字幅が徐々に縮小し12月に黒字化するというサイクルがあることを確認できます。
そして、過去20年のNZドルの月別騰落率を検証してみると12月はNZドル/円の陽線確率の高さが17勝3敗と突出していることに気づきます。逆に8月は6勝14敗で陰線確率のほうが大きいのですが、9月には12勝8敗とその関係がガラリと反転し、陽線確率が12月に向けて上昇し続けるという特徴があるのです。
これがNZドル貿易収支のサイクルときれいに相関していることは言うまでもありません。
ニュージーランドの酪農生産輸出サイクル
ニュージーランドは国土面積の半分を農地が占めており、農畜産物の輸出が総輸出の60%以上を占める基幹産業です。また、その中でも酪農が生産、輸出額ともにその40%を占めています。
生乳生産は牧草生育期に合わせた放牧主体の季節繁殖によるものが中心です。南半球ということもあり、8月早春に分娩がなされた後に搾乳が開始され、10~12月の初夏にかけて搾乳のピークを迎え、その後は乾乳牛の分娩に備えるといったサイクルがあります。
つまり生乳生産には季節性があるのです。これがニュージーランドの酪農製品の輸出サイクルになっていることから、貿易収支の赤字、黒字の季節性につながっているものと思われます。
このことを踏まえた上で、2020年も年末に向けてはNZドルが強含むと考えられるのではないでしょうか。