ユーロ/米ドル相場が、12年も続いてきた下落トレンドにピリオドを打ったとの見方が強まっています。

ユーロ/米ドルは2008年に示現した1.60ドル台の過去最高値から上値を切り下げる下落トレンドが続いてきました。ギリシャ危機から欧州債務危機、英国のEU離脱などEU圏には懸念材料が山積し続け、ECB(欧州中央銀行)が2014年にマイナス金利政策を導入したことで、ユーロはキャリートレードの調達通貨(※)とされ続けました。

「欧州解体」というタイトルの本がベストセラーにもなるほど、ユーロは売られる通貨として定着していたのですが、なぜ潮目が変わったのでしょうか!?

※キャリー通貨:低金利通貨で資金調達し、金利の高い資産で運用することをキャリートレードと呼び、その資金調達通貨をキャリー通貨と呼ぶ。

ユーロ売りの潮目を変えたEU共同債の合意

欧州連合(EU)は7月21日、新型コロナウイルスに苦しむ域内経済の立て直しとして7500億ユーロの「復興基金」を創設することに合意しました。

このEU復興基金の資金調達の手段が「EU共同債」。EUの行政府である欧州委員会が共同債を発行して資金を調達、3900億ユーロを返済不要の補助金として加盟国に給付し、3600億ユーロを融資するというものです。ギリシャやイタリアと言った南欧諸国(特定の国)を救済するため、EU加盟国が共同で債務を負う「財政統合」実現への1歩を踏み出したのです。

これまで利下げなどによる通貨の切り下げでは、輸出競争力の高いドイツが最もその恩恵を受けてきました。財政状況が全く異なるEU各国がユーロという統一通貨であるために、金融政策ではEU諸国の財政不均衡を解決することはできなかったのです。これを解決できるのが「財政統合」であり、ダイレクトに財政赤字国を支援することが叶うのです。

財政統合に対する投資家の見方

この財政統合をきっかけに、投資家の間ではユーロ/米ドル相場は下落トレンドに終止符を打ち、上昇トレンドに転換するという見方が広がっています。EU共同債が米国債に匹敵する投資先となる、として機関投資家が注目しているのです。

現在、安心して投資できる欧州の債券はほとんどありません。欧州圏で最も安全なのはドイツですが、ドイツは黒字であるため債券供給量が少なく、利回りはゼロを下回るマイナス金利債券。また、世界一安全な資産とされる米国債も10年債利回りはわずか0.6%、30年債利回りも早晩1%を割り込む勢いで低下しており、米国債への投資妙味が低下しています。

よって、EU共同債が実現すれば、機関投資家らがこの市場になだれ込んでくる可能性が大きく、ユーロ買い要因となるとみられているのです。

短期的には「利食い場」となり調整局面に

こうした背景から、ユーロ/米ドル相場は3月のコロナショックでつけた1.0635ドルを底値に8月1.1916ドルまで大きく上昇しました。IMM通貨先物市場の投機家らのユーロ買いポジションは過去最大レベルにまで積み上がっています。(買い24万2427枚に対し売りが8万4568枚、ネットポジションは15万7859枚のユーロ買い越し)

また、日足チャートを見ると200日移動平均線にタッチ。2008年からの長期下落トレンドの上値抵抗線にぶつかったところで反落してきています。短期的には典型的な「利食い場」の様相。調整局面を迎えそうです。

ユーロ買いのタイミングは…

EUサミットでの合意も、復興基金の支援策は欧州議会と加盟各国の承認を必要とします。報道によると加盟国の中には、議会で同案を諮る国もあり、承認には時間がかかるリスクも考えられます。ただし承認されなければ、前述した「欧州解体」論が市場を覆うでしょう。

時間はかかっても加盟国はこれを承認せざるを得ないとみる投資家が大勢です。今後、加盟国各国の承認を巡る報道でユーロが急落する局面があれば、ユーロ買いの好機となるのではないでしょうか。