新型肺炎の感染拡大による世界の景気後退懸念から始まった今回の「コロナショック」は、OPECプラスの追加減産合意決裂とサウジアラビアの増産表明によって原油が急落した「逆オイルショック」も加わって、下値が見えない展開となっています。

逆オイルショックとは

産油国は原油が高ければ潤いますが、原油安が長期化すれば財政難に陥ってしまいます。逆オイルショックによって産油国の潤沢な投資資金(オイルマネー)がリスク資産から撤退する可能性が警戒され始めたことに加え、世界一の産油国に躍り出た米国のシェール企業の破たんリスクも懸念され始めています。

米国のシェール企業は社債で資金調達しているケースが多く、ハイイールド債(ジャンク債)の10%がシェール企業で占められているといわれています。

近年、技術革新によりシェールオイルの生産コストは50ドル程度にまで安くなってきましたが、逆オイルショックによって3月9日、WTI原油価格は一時27ドル台にまで急落しました。生産コストに見合わぬ市場価格が長期化すれば、シェール企業の破たんも起きる可能性があります。

そうなると、ハイイールド債市場にも影響が及びかねない状況が考えられます。このことが社債市場のみならず債券市場全般、そしてクレジット市場に悪影響をもたらしかねないため、市場関係者間で警戒され始めているのです。
1970年代のオイルショックは原油の高騰がもたらすリスクでしたが、今回は原油下落がもたらすリスクということで「逆オイルショック」と呼ばれ始めています。

2月のドル高円安に騙された!?

2020年の株価下落の第1フェーズであり、コロナショックの初期段階でもあった2月、米ドル/円相場は1ドル112円台まで円安ドル高が進行しました。

新型コロナウイルス問題が表面化していたにもかかわらず円売りが進んだことで「悪い円安論」も台頭しました。一方で、実はこの裏でセブン&アイ・ホールディングスが、米石油精製会社マラソン・ペトロリアムのガソリンスタンド部門「スピードウェイ」買収で、独占交渉に入ったことが材料視されていたとの指摘もありました。

買収提示額は約220億ドル(約2兆3500億円)と伝わっていましたので、これが実現すれば巨額のドル買いが起きるとの思惑が投機家らを動かしたとみられます。

先回りしてドル買いした短期筋がいた可能性があるということです。しかし、この交渉は決裂。これを材料にドル買いしていた短期筋の投げが出たことが、1ドル112円台まで上昇した米ドル/円相場の初動の下落をもたらしたものとみています。

その後、新型コロナウイルスの感染拡大に加えて逆オイルショックによるリスクオフ相場によって円買いが本格化、米ドル/円相場は3月9日には101円台にまで急落しました。やはりリスクが高まれば、日本円は買われる通貨であることが再確認されています。

米国FRBは0.5%の緊急利下げ

しかしながら、今回の米ドル/円相場の急落は円買いが強まったというだけではく、米金利急低下によるドル売りという側面もあります。FRB(米連邦準備制度理事会)は3月3日、FF金利を0.5%引き下げる緊急利下げを発表しました。

3月17~18日には定例のFOMCが開催されます。今回はそれを待たずに「緊急」で利下げに踏み切ったのですが、金融市場の混乱を抑えることはできませんでした。

金利先物市場では3月18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)でも0.5~0.75%の利下げを織り込んでいます。米長期債利回りも9日0.3%台に沈む異常事態。米国からも金利が消失しようとしています。

米金利が急速にゼロに向かっていることがドル売りをもたらした結果、ドル売りが優勢となっていますが、逆オイルショックによって損失が出た投資家らは、損失の穴埋めに保有資産を売却する可能性があります。

仮にドル資産の売却と換金、米国への還流が旺盛となれば、金利とは無関係にドル高となるかもしれません。金利の急低下のショックでドル売りが加速しましたが、本格的有事となれば、やはりドル買いとなる可能性は否定できないのです。