世界の株式市場には早くもリスクを取る動き

2020年年初の米ドル/円相場は、中東情勢の緊迫化をきっかけに、107.60円台まで円高ドル安が進行する局面がありましたが、リスク回避の機運が高まり反発しました。

足下では新型コロナウイルスが世界景気に及ぼす影響が懸念される中でも、米ドル/円相場は膠着の様相を呈しています。足下の為替市場で起きているのは「ドル高円高」です。どちらも強いために米ドル/円相場で見ると、綱引き状態で動かなくなってしまっているということですね。

ドル高円高はリスクオフ時にみられる動きですが、新型コロナウイルスへの警戒を後目に米国株は堅調に推移しており、ダウ平均は史上最高値を更新する強さを見せています。

上海総合指数も春節明け初日こそ大きな下落となりましたが、その後の中国当局の大規模資金供給が功を奏し、下値を試す動きとなっておりません。そのようなこともあり、世界の株式市場には早くもリスクを取る動きが出始めています。となれば、米ドル/円相場はリスクテイク相場に見られる「ドル安円安」となっていくのでしょうか。

考察を始めるにあたって、何故、リスク回避相場では「有事のドル買い」が意識されるのかを考えてみましょう。

リスクが高まると、「海外の株式や債券などに投資されたリスク資産が売られ、基軸通貨である米ドルが買われるのではないか」という警戒が拡がります。リスクが高まるとまずは新興国などの流動性の低い資産から売られキャッシュ化(ドルに戻す)されるほか、世界一流動性の高い安全資産とされる米国債の買いも旺盛となるため、ドル高となるのです。

この時、同時に日本円も買われる「ドル高円高」となるのはどうしてでしょうか。

日本は世界一の対外純資産国。つまり海外にたくさんの資産を保有しているということです。例えば大災害などが発生した場合、機関投資家でもある保険会社は被害補償の支払いを迫られます。そのため、海外に投資していた資産を処分してキャッシュ化(円に戻す)するのではないかという思惑が広がるという背景があります。

あらゆる通貨が売られる中でドル一強に

では、足下の株高にみられるように金融市場がリスクオン相場に回帰したというなら、再びリスク資産への投資が活発となるため、為替市場ではドル安円安が進行してもいいはずですね。ところが現在、ドルインデックスを確認するとドル高が進行しています。あらゆる通貨が売られる中、ドル一強の様相を呈しているのです。

このドル高にトランプ米大統領は2月10日、「米利上げペースは速過ぎ、利下げは遅過ぎる」と、苦言を呈しました。実は2018年以降ドルインデックスは緩やかにドル高基調を続けており、リスクオン、オフとはほとんど関係がないセンチメントを醸成しているのです。

しかし、米国FRB(米連邦準備制度理事会)は昨年2019年、それまでの利上げサイクルから一転、利下げに踏み切っています。政策金利は2.50%から計3回の利下げによって1.75%にまで引き下げられているにもかかわらず、ドルは強いままというのは何故なのでしょうか。

これは日欧主要国の政策金利がほぼゼロ金利となっているだけでなく、リーマンショック前は高金利通貨として人気を博した豪州の政策金利も0.75%とゼロ金利時代に突入、ニュージーランドの政策金利も1%にまで引き下げられており、米国の政策金利1.75%が主要国の中で最も高いということが主因と思われます。

利下げ圧力のなか、米ドル/円相場は緩やかに切り上がっていく

日本の生命保険会社や年金などの機関投資家らは国内での運用先がないため、米債を軸とした外債投資に舵を切っており、利回りを求める中長期投資は米国以外に妙味がない時代となってしまったことがドル人気の背景です。

この株高にあっても中央銀行に利下げを求めるトランプ米大統領に対しては、批判も多くみられます。しかし、主要各国の政策金利と比較すれば圧倒的に投資魅力がある高金利通貨のドルのレートを下げさせるには、さらなる利下げを迫るしかないというのもわからないでもないですね。

中東有事やパンデミックリスクなどの有事は、ドル高円高をもたらしますが、平時に戻りリスク選好相場となってもドル高が終わらないということは、米ドル/円相場は緩やかに切り上がっていく流れにあると考えることができるでしょう。それだけ日米の金利差は大きく、マネーはスワップを支払う側ではなく受け取る側にいる方が心地良いということかと思われます。