2020年の欧州通貨展望として、ユーロ/米ドルと英ポンド/円について考えてみる。この2つの通貨ペアは、前者は緩やかな下落、後者は夏にかけて急落となった。しかし、後者はすでに底を打ち、上昇トレンドへ転換した可能性があり、前者も上昇トレンドへ転換する可能性がありそうだと考えている。
ユーロ/米ドル=金利差とかい離した相場を説明できるものとは?
ユーロ/米ドルは2019年、緩やかな下落傾向が続いた。ただこれは、米独金利差から大きくかい離したものだった(図表1参照)。たとえば、米独10年債利回り差ユーロ不利は、大きく縮小し、2018年2月前後の水準まで戻した。
2018年2月とは、1.25ドルからユーロ/米ドルの下落トレンドがスタートした頃。要するに、金利差からすると、ユーロ/米ドルは下落トレンドのスタート地点である1.2ドル以上に戻ってもおかしくなかったところ、金利差とかい離した形で下落傾向が続いたわけだ。
このように、金利差からかい離したユーロ/米ドルの動きを比較的うまく説明できそうなのは、投機筋のユーロ売りの動きだ。CFTC(米商品先物取引委員会)統計によると、投機筋のユーロ・ポジションは、2018年2月前後に買い越しが頭打ちすると、その後は買い越し縮小、さらに売り越し拡大といった形でユーロ売りが続いてきた(図表2参照)。
以上のように見ると、金利差ユーロ不利が縮小する中でも、それを尻目にユーロ下落傾向が続いたことは「ユーロ売りが続いたから」とすると辻褄は合う。ただし問題は、「なぜ金利差ユーロ不利が縮小する中でも、投機筋はユーロ売りを続けたのか?」ということ。これを説明できそうなのは120日MA(移動平均線)との関係だ。
ユーロ/米ドルは2018年4月に120日MAを割り込み、以来基本的に120日MAを下回る水準で推移してきた(図表3参照)。そのような中で、投機筋のユーロ・ポジションは、2018年4月から買い越し縮小という形でユーロ売りが本格化し、最近にかけてユーロ売りが続いてきた。
120日MAは、ヘッジファンドなど投機筋の売買転換点とおおむね一致する。基本的には120日MAを上回ると「買い」、下回ると「売り」。その意味では、2018年4月からユーロ/米ドルが120日MAを割り込み、以来120日MAを下回って推移する中で、金利差ユーロ不利縮小とは大きくかい離した形での投機筋のユーロ売りが続いたのは、120日MAとの関係では辻褄が合う。
さて、そんなユーロ/米ドルの120日MAは、足元で1.11ドルをわずかに下回ってきた。このため、ユーロ/米ドルは2018年4月以来の120日MAを上回る動きを試す展開が最近にかけて続いているわけだ。
これまで見てきたように、2018年2月から続いてきたユーロ/米ドルの下落トレンドは、金利差ではなく120日MAを目安にした投機筋のユーロ売りが比較的うまく説明できた。これを参考にすると、ユーロ/米ドルが1.11ドル以上に上昇し、120日MAを大きく上回るようなら、投機筋はユーロ買いに転換する可能性が出てくるだろう。
すでに金利差から見ると、ユーロ不利は、かつてユーロ/米ドルが1.2ドルを超えていたところまで縮小している。それに加えて、投機筋がユーロ買いに転換するなら、ユーロ/米ドルは金利差で正当化できる1.2ドル前後まで上昇に向かってもおかしくはないのではないか。
英ポンド/円=52週MAブレークが示唆する上昇トレンドへ転換の可能性
次に英ポンド/円について考えてみる。英ポンド/円は、8月には126円まで下落したが、その後反発に転じると、12月には注目の英総選挙の後に148円近くまで急騰した。このような激しいプライスアクションの中で注目されたのは、52週MAを大きく上回ってきたことだ(図表4参照)。
経験的に、52週MAを大きく上回った動きは一時的ではなく継続的、つまり上昇トレンドが展開している可能性が高い。以上からすると、Brexit(英国のEU離脱)懸念などから下落トレンドが続いた英ポンド/円は、8月126円で底を打ち上昇トレンドに転換した可能性が高そうだ。
経験的には、上昇トレンドにおける一時的な下落も52週MA前後までがせいぜい。足元の英ポンド/円の52週MAは139円程度なので、英ポンド/円は下がっても139円を大きく、長く下回らない程度にとどまり、2020年は上昇トレンドが展開する可能性が高いのではないか。