マーケットの不安心理が高まり、株などのリスク資産が下落する際、資金の逃避先に選ばれる資産として債券やゴールドがあげられます。為替市場では、日本円とヨーロッパの永世中立国であるスイスの通貨、スイスフランが同様の特徴を持ち合わせています。

なぜ、スイスフランはマーケットが安定しリスクオンに傾くと売られ、不安が高まるリスクオフ相場になると買われるのでしょうか。

安全資産としてのスイスフラン

スイスは、EU圏からも距離を置く永世中立国であるため、通貨フランは「安全資産」と位置付けられています。地政学の悪化、テロ、軍事的緊張の高まりや、世界経済の先行きに不安が高まると株や不動産などリスク資産が売り込まれ、逃げ出したマネーがスイスに流れ込みやすいとされています。

近年では2011年の米国同時多発テロ、2010年のEU債務危機や2003年のイラク戦争勃発時にスイスフランは急激な高騰を見せました。

また、巨額の経常黒字と対外資産、金保有国であることなどもスイスフランが安全資産とされる所以です。

・2018年のスイスの経常黒字は対国内総生産(GDP)比で9.78%
・2018年末のスイスの対外純資産(※)は99兆5,142億円で世界第6位

(日本は341兆5,560億円で圧倒的1位)
・2018年のスイスの金保有残高は1040トンで世界第8位

(※)対外純資産=国が海外に保有している資産から負債を除いたもの

キャリートレードの資金調達通貨

リスクオフ時にスイスフランが買われるのは、スイスフランが「キャリートレードの資金調達通貨」であるためとも言えます。

リスクオン時にはキャリートレードという投資が活発化します。これは低金利通貨で資金を調達し、新興国市場などの高利回り資産に投資する手法です。日本円、スイスフラン、ユーロは低金利通貨であるため、「キャリートレードの資金調達通貨」として利用されやすいという特徴があります。資金を借りてきて別の資産へと投資するわけですから、キャリートレードはマーケットの不安が少ないリスクオン相場で活発となる取引と言えます。

一転、リスクオフ相場となると、マーケット不安に対しキャリートレードが巻き返され、買われていた新興国などの高利回り資産が売られ、これらの資産は下落します。一方、調達通貨として売られていた円、スイスフラン、ユーロが買い戻されるレパトリエーション(資金回帰)が起きるため、これらの通貨は上昇するのです。

スイスは長期的に低金利政策を継続しています。2011年に政策金利をゼロ%に、2014年にはマイナス金利政策を導入しています。これによって、スイスフランは低コストで借りることができる「キャリートレードの資金調達通貨」として、平時には売られるのですが、有時には巻き返されることで買われて上昇するという特徴があるのです。

スイス中央銀行の介入~スイスフランショック

2011年、欧州債務危機でユーロが売られスイスフランが急騰したことで、スイス中央銀行(SNB)は政策金利をゼロ%に切り下げます。それでもスイスフラン買いの圧力は収まらなかったため、SNBはユーロ/スイスフランのレート1.20を下限として無制限の為替介入を行う宣言を行いました。

この為替介入によって、ユーロ/スイスフランのレートは1.20~1.25の小さなレンジの中で張り付くような値動きとなりました。しかし、その後、欧州中央銀行(ECB)もマイナス金利政策を導入したことでスイスフランへの買い圧力が強まることとなりました。長期にわたるスイスフランへの買い圧力に耐えきれなくなったSNBは、2015年1月15日、突然1.20のフロアでの無制限介入を撤廃することを発表します。

介入をやめるとの突然の発表で、ユーロ/スイスフラン相場はわずか20分ほどの間に40%もの暴落となりました。この大混乱によって巨額の損失を被った投資家は多く、これがトラウマとなってスイスフランの世界の安全資産としての地位が低下してしまいました。

現在、リスクオフ時に最も上昇する(買われる)通貨は日本円となっています。為替介入が行われる通貨は急激な変動をもたらすため、投資家に不人気なのです。

スイスフラントレードの注意点

スイスフランの価格変動要因となる重要な指標やイベントとして、主に以下のものが挙げられます。

・SVME購買部協会景気指数(企業動向)
・失業率(雇用環境)
・消費者物価指数(インフレ率)
・貿易収支・国際収支(財政状況)

また、スイスはEU諸国に囲まれており、強い貿易関係にあるため、スイスフランはユーロの値動きの影響を受けやすいという特徴もあります。

円やドルなどと比較して情報が少ないことから、重要な指標やイベントでの価格変動を狙うイベントトレードには難しい通貨でもあります。