為替市場には「有事のドル買い」という言葉があります。これは戦争や紛争などの有事が勃発した際には、基軸通貨であり流動性が高い安全資産である米ドルが買われ上昇するという経験則です。なお、対外純資産(※)が世界一の日本円も安全資産とされており、有事には円買いが加速する事象が散見されます。

※日本の対外純資産=日本が外国に保有する資産から、外国から国内への投資(負債)を引いたもののこと。日本は27年連続世界一の債権国(お金持ち)です。これが「日本円が安全資産」と呼ばれる所以でしょう。

では実際に過去の政治や経済危機、テロ発生時に米ドル/円相場はどのように動いたのでしょうか。いくつか実例をご紹介します。

■1985年9月プラザ合意

米国の対日貿易赤字削減のため、実質的に円高ドル安に誘導する内容であったプラザ合意。発表の翌日、米ドル/円相場は1日で235円から約20円もの円高進行となりました。

政治が為替市場を大きく動かした実例ですが、足下で米国は対中、対日の通商交渉にて対米黒字削減(米国赤字の削減)を迫っています。日本との間でも「為替条項」が盛り込まれる可能性が懸念されており、再び政治が為替市場での大きな円高を誘引するリスクとなるかもしれません。

■1989年6月天安門事件 

141円台で推移していた米ドル/円相場は、天安門事件後の10営業日で149円台まで急激なドル高円安が進行しました。当時は、現在のように中国マーケットが解放されていなかったため、中国の政治リスクはアジアリスクと受け止められ、地政学的に近い日本の円が代替として売り込まれました。

この時日本はバブル景気の真っただ中にあり、この年の12月に日経平均の最高値を付けたのですが、この年の6月は34,328円の高値から32,606円の安値まで3.85%も下落しています。

■1998年LTCMショック

1998年8月ロシアがデフォルト。これを受け、世界最大のヘッジファンドであったLTCM(ロングターム・キャピタル・マネージメント)が9月に破綻しました。8月に1ドル=146円台だった米ドル/円相場はこの危機で10月6~8日のわずか2日間で134円台から111.65円まで、22円超も急激な円高に見舞われています。

■2001年9月米国同時多発テロ

2001年9月11日。120円台で推移していた米ドル/円相場は118円~122円の乱高下を演じた後、9月20日に向け115.83円まで円高ドル安が進行しました。米国が有事(テロ)の対象となったことで「有事のドル買い」が起こらなかったと指摘されています。

■2008年9月~10月リーマンショック

2007年のサブプライムショック、2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻とAIGの国有化という経済危機で、金融市場にはクレジットクランチと呼ばれる信用収縮が起こりました。

一連の銀行などの金融機関が抱える負債が不透明だったため、金融機関への信用不安が貸し渋りを引き起こしマネーが市場に巡らなくなってしまったのです。

この影響で世界の株式市場は手仕舞い売りに押され暴落しました。2008年10月24日、米ドル/円相場はたった1日で98円台から90円台まで7円以上の円高が進行しました。

 

有事発生の際には安全資産への資金逃避が行われることで為替が大きく変動した事例をほんの少しご紹介しました。全ての例を紹介したわけではありませんし、同じような有事がおきたとき、また同じ見解や為替の変動が発生するとは限りません。

今何が起きていて、この先どうなっていくのか。状況を鑑みてリスクをなるべく抑えるためにできることは何か。いざというとき自分でしっかり考えられるように日頃から世の中の動きに敏感になっておきたいものですね。