原油価格が崩れてもドル/円相場ではジワリ円安ドル高が進行。年末に向けてリスクへの反応が薄れているのはなぜでしょうか。

WTI原油先物価格は23日、1バレル50.42ドルまで下落、2017 年10月以来の低水準まで沈みました。米シェール革命で米国が世界一の原油生産国となったことから、原油安は米国エネルギー産業に打撃となります。近年、米国株と原油価格の相関性は高まっていましたが、11月23日の大きな原油価格の下落にも、週明けからの日米の株式市場はしっかりとした値動きとなっており、その相関が薄れているようです。

また、原油安から米国株が下落すれば日本株市場にも影響が及ぶ「リスクオフ」相場となることから、円高への警戒も強まるのですが、足下ではドル/円相場は上昇基調を強めており、為替市場においても原油安の影響は限定的となっています。

米シェール革命が米国を世界一の産油国に成長させる前は、原油価格の下落は原油輸入コストの負担減となるため経済を下支えするとされていました。しかし、近年では原油価格の下落は米国のシェール企業の採算と資金調達に悪影響が及び、ハイイールド債と呼ばれる社債市場が崩れるリスクになるとして、米国経済にとってはネガティブ材料とされています。

また、サウジアラビアなど産油国の政府系ファンド(オイルマネー)の投資が引き上げられるリスクにもつながるため、原油と世界の株式市場の相関が強まっていたのですが、足下での原油価格の急落にも世界の株式市場は比較的落ち着いた動きとなっています。

WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は、米国の設備投資全体に占める石油業界の割合は小さくなっており、石油業界に頼る雇用者数も減少していることから、そのインパクトは低下してきており、原油価格下落による設備投資や雇用の緊縮があっても、ガソリン価格下落の好影響を打ち消す程の悪材料ではないだろうと考察しています。数年前と比較するとシェール生産の投機性がかなり低くなっており生産効率が大幅に高まっていることが、原油下落による経済への悪影響を薄めていると指摘しているのです。

確かに、米国は10月1日~11月30日まで、政府の戦略石油備蓄(SPR)の放出を実施しています。これはトランプ大統領が11月6日の中間選挙に向け、米国の個人消費に大きな影響を及ぼすガソリン価格を下げさせたいという思惑があっての政策だろうとみる向きが大半でしたが、実際、原油価格は10月3日を天井に大きく崩れています。

また、トランプ政権はサウジアラビアに対して増産要請も行っていましたが、サウジアラビアも11月の原油生産を過去最高水準に引き上げたことを明らかにしています。これを受けてトランプ大統領は11月21日、Twitterで「原油価格は下落している。素晴らしい!サウジアラビアに感謝する。だがもっと押し下げよう!」とツイートしています。

中間選挙を経過してもなお下落を続ける原油価格を見て、トランプ大統領は市場構造を理解していないのでは?と懸念する市場関係者も少なくないのですが、ガソリン価格が下がってきたことで、米国消費者の消費マインドは冷え込まずに済んだようで、ブラックフライデー(感謝祭翌日の金曜日)のオンライン売上高は過去最高の約7,000億円になったことが報じられている他、サイバーマンデー(感謝祭翌週の月曜日)」の売上高も過去最高の79億ドルに達する見通しが発表されています。

これを受けて、Amazon株が大きく買い戻されており、今冬のクリスマス商戦も旺盛な個人消費に支えられて米国の経済の強さが確認できそうなムードが高まってきました。

改めて考えてみれば、原油を輸入しなくてはいけない新興国にとっては原油価格は安い方が経済にはプラスです。今夏、トルコを始め南アフリカなど新興国通貨の急落が話題となりましたが、ドル高という要因や、高騰を続ける原油価格で赤字が拡大し続けていることが通貨安の一因です。

原油価格が崩れてくれば新興国経済が息を吹き返すシナリオも描けることから、米中貿易交渉、英国のブレグジット交渉などに落ち着きが見られれば金融市場は再びリスクテイクに動く可能性も出てきたように思います。これがドル/円相場を支える要因となっているのかもしれませんね。