ドル指数(DXY)が97に乗せ16カ月ぶりの高値更新となっています。DXYはICE(インターコンチネンタル取引所)が公表する指数で、リアルタイムでレートが更新され、先物市場もあるためトレーダーらが注目するインデックスです。他にもFRB(連邦準備制度理事会)やBIS(国際決済銀行)が公表するドル指数があります。
FRBもBISも日々更新されますが、リアルタイムで動かないため、あまり市場で話題になることはありません。しかし、先週11月9日の日本経済新聞に「ドルの総合的な価値である名目実効レートが1985年以来33年ぶりの高値を付けた。」とBISが公表するドル指数が大きく取り上げられました。
BISの10月末のドル指数は128.51。プラザ合意があった1985年以来の高さとなった、というのです。冒頭で紹介したDXYは16カ月ぶりの高値更新ですが、この違いはなんでしょうか。
これらのドル指数は、構成される通貨の比率が異なります。DXYの構成通貨はわずか6か国。中でもユーロの構成比率が57%程度を占めているため、ユーロ/ドル相場を見ているようなものだ、との指摘もあります。ユーロの存在感が大きいために、ユーロが弱いという材料でもドルインデックスが上昇してしまうということです。
FRBが公表するドルインデックスには人民元が組み入れられており、その比率は20.8%とユーロの16.2%を上回っているため、人民元の動向が色濃く反映されています。
日本経済新聞が取り上げたBISのドルインデックスは61か国もの国で構成されており、ユーロの比率も高くはありません。よって、世界のより広い範囲の国の通貨を対象に相対的なドルの強さを見るならばBISのドルインデックスを見るべきでしょう。これが33年ぶりの高値を更新しているというのですから足下のドル高は本物です。
中間選挙では民主党が下院を制しました。議会がねじれることでトランプ政権の掲げた中間層向けの減税などは通りにくくなり、財政出動は抑制的になるとの見方から、中間選挙後は米長期金利が低下し、ドルが全面安となる局面がみられました。しかしながら、ドル安はわずか1日に留まり、その後は大きくドルが上昇しています。
この動きは2年前の大統領選挙でトランプ大統領誕生となれば米国株は下落するといって、東京時間で株やドルが売り込まれたものの、その後猛烈に買い戻されて大相場を演じたのと似ているようにも見えます。しかし当時と異なるのがブレグジットと欧州問題。大統領選挙の後の株式とドルの上昇は、トランプ大統領が公約に抱えていた大型減税がテーマとなり、金利の上昇と株高をもたらしたためでしたが、今回はねじれ議会です。トランプ大統領の政策は通りにくくなるため、大統領選挙の時のようにサプライズでの反動での株高、ドル高となることは考えられません。
他方、イタリアの財政問題や、ドイツのメルケル政権の求心力低下、特にメルケル首相は12月の党首選に出馬しない意向を表明しており、ドイツの政局不安はユーロの重しとなっています。2019年3月29日の期限に向けて、EUと英国のブレグジット合意が待たれますが、英国内ではメイ首相のブレグジット案に反対する閣僚らの辞任が相次ぎ、メイ政権が求心力を失う中でEUとの合意は一層困難を極めるとみられています。
これがポンド売りにつながっており、足下は、ポンドやユーロに売り材料がある中でのドル高となっていると見ることもできます。※11月13日、英国の首相官邸はブレグジット条件を定めた草案で、EU側と合意に達したと発表しています。11月14日午後2時(日本時間同11時)に開く閣議で草案を協議した上で、「次の措置を決定」すると報じられています。
そもそも、2年前の大統領選挙当時の米国の政策金利は0.5%。以降FRBは政策金利を段階的に引き上げ、現在は2.25%となっています。米国の金利は高金利で人気を博していたオーストラリアやニュージーランドを上回っています。リスクシナリオが後退すると、為替市場は金利の高い方にリスクを取り始める傾向がありますので、ドルは下がりにくい構造となりました。
しかし33年ぶりのドル高ともなってくると、これがFRBの利上げペースに影響しないとも限りません。市場は12月のFOMCでの利上げをほぼ織り込んでいますが、関心は利上げ打ち止め時期はいつ頃になるのか、にシフトしてくるものと思われます。
利上げ打ち止め時期が意外と早まれば、買われ過ぎたドルは大きな調整を強いられるものと思います。足下のドル高は欧州や英国の問題への懸念が後退すれば、鎮静化するとみられ、ここから大統領選挙の時のようなスケールの大きなドル高進行となることは考えにくいと思っています。