米国株はじめ世界の株式市場を襲った急落は、米金利の急上昇に起因しているとの指摘が多いようです。米国債の10年債利回りは10月に入って急騰、3.2%台へと吹き上がりました。市場関係者は30年債利回りの3.25%台のレジスタンス突破に慌てふためいたようです。

新債券王として著名なジェフリー・ガンドラック氏がかねてから警鐘を鳴らしていた債券バブルの崩壊ですが、3.25%が最後の壁だったとして、今後利回りの上昇が加速し、世界の株式市場は2018年1月がピークだったことが記録されるだろう、との見方を明らかにしています。

米金利上昇は、住宅金利や自動車ローン金利の上昇をもたらし景気にブレーキをかけてしまいます。これに驚いた市場が、リスク資産の手仕舞いに動いたものとみられますが、その裏に中国の米国債売却があったのではないかと噂されています。

最新の情報である7月の中国の米国債保有残高は1兆1710億ドルと半年ぶりの低水準まで減少しました。5月から3か月連続で減少しています。中国の米国債保有は世界一(2位は日本)。

海外勢による米国債保有の20%が中国によるものです。これを米中貿易摩擦に対しての中国による報復の一環とみる向きもありますが、1兆ドルを超える巨額の米国債は毎月のように償還がやってきます。

償還分を再投資すれば残高は変わりませんが、再投資せずキャッシュに変えてしまえば残高は減少します。積極的に報復措置として米国債を売却すれば米国による中国包囲網は一層厳しいものになると思われ、おそらく償還分を再投資しないという形でキャッシュ(米ドル)に換えているものと思われますが、真相は明らかではありません。

リスクへの警戒が小さく、市場を楽観が支配しているような環境においては、日米金利差はドル買い要因です。要するに、米国株が上昇しているうちは、米金利上昇はドル/円相場の上昇の材料とされますが、リスクへの警戒が強まり、米国株が下落するような環境となれば、日米金利差よりも市場はリスク回避に動きます。

その場合、買われていたものは手仕舞われ、売られていたものは買い戻されるという「逆流」が起こります。 前回のコラムにも書きましたが、ヘッジファンドなどの投機筋の円ショートが積み上がっています(円ショートはドルロング、すなわちドル/円の買いです)。

先週末に発表された10月9日時点(最新データ)のIMM通貨先物ポジションを確認すると、ヘッジファンドなどの投機筋の円ショートポジションは大きく積み上がり、ネットポジションでは11万枚もの円ショートとなっています(売りと買いを相殺すると円売りが勝っている状況)。

先物市場のポジションは積極的にキャピタルゲイン(値動きによる収益)を取りに行くものですから、何か起きれば積極的に動きます。この先物市場の円ショートが、株価下落時には買い戻されることによって円高圧力が強まってしまうのです。

しかし、やや意外感が大きいのは、10月に入って日経平均が高値から2,000円あまりの下落となっているのに対して、ドル/円相場は114円台から111円台へと3円程度の下落に収まっています。

底堅いのは何故でしょうか。市場関係者に伺うと、本邦勢が積極的にドル買いを行っているとのことですが、財務省発表の今年1-8月の対外直接投資は累計で11兆3446億円であることがわかりました。これは年間で過去最大を記録した昨年の同期間の12兆8319億円とほぼ変わらないペースです。

対外直接投資ですから、日本から海外への投資額。要するに日本円から米ドルや欧州ユーロなどへ投資されるということですから、円売り外貨買いですね。日本企業による海外企業のM&A(買収)が活発であることが伺えます。

これがドル/円相場の下値を強固に支えているものと推測されます。日本は深刻な少子化から企業が海外にマーケットを開拓するほかなく、こうした実需によるドル買いが投機による変動を抑え込んでいるものと考えられ、構造的な変化が起こっているということでしょう。