日米通商交渉で警戒されていた自動車への関税を回避できたことで日本株市場には安心感が広がり、日経平均は24,000円の大台まで一気に駆け上がりました。

同様に日米通商交渉を控え手控えられていた実需筋のドル買いも上期末となる9月末に向けて加速し、ドル/円相場は114.50円台まで上昇しました。日米の貿易交渉はTAG(物品貿易協定)という新たな枠組みで話し合いが持たれることとなり、交渉中は、自動車関税は課さないとされています。

市場には一定期間先送りされても、後に蒸し返されるリスクを指摘する声も根強くあるようですが、9月末の中間決算に向けてひとまずはリスクテイク方向に相場が大きく動きました。

日経平均は25,000円、ドル/円相場も120円まで上昇するという強気の声も出始めたのですが、日経平均、ドル/円相場は下落基調に転じています。強気相場は終焉してしまったのでしょうか。

ドル/円相場は、警戒からドル買いを控えてきた実需の買いに加えて、投機筋の円ショートも積み上がったことがあげられます(円ショートはドルロング、すなわちドル/円の買いです)。

先週末に発表された10月2日時点(最新データ)のIMM通貨先物ポジションを確認すると、ヘッジファンドなどの投機筋の円ショートポジションは大きく積み上がり、ネットポジションでは11万枚もの円ショートとなっています(売りと買いを相殺すると円売りが勝っている状況)。

これだけポジションを積み上げてきたことを考えると、ここからの投機筋によるドル/円の買いはあまり期待しない方がいいかもしれません。

足下で市場関係者が警戒しているのは米金利上昇です。先週、米長期債(10年債)利回りは3.23%へと大きく上昇。市場関係者は現在米30年債利回りが長いこと上値抵抗となっていた3.25%の節目を抜けて3.40%へと急騰したことに警戒しています。

金利が急上昇すれば株式市場に悪影響が及びます。株も大きく下げることとなれば市場のムードは一転リスクオフムードへと変わってしまいます。リスクオフとなればドル/円相場には円高圧力となってしまいますね。

債券利回りが上がるということは、米国債の売り圧力が増しているということですが、市場では中国が保有する米国債が売却されているという噂が。貿易摩擦の応酬なのか、資金繰りに困り始めているのか真意は定かではありませんが、中国による米国債売りの可能性が噂されるほどに足下で再び中国の動向がクローズアップされ始めています。

国慶節(10月1日~10月7日)の連休明けとなった10月8日、上海総合指数は3.72%安の2,716.51と大きく下落して取引を終了しました。米国向けの情報通信機器に中国製「スパイ」半導体が組みこまれていた、と報道され、先週10月5日の香港市場でレノボやZTEなど中国企業の株価が急落したことを受け、中国当局は一部銀行を対象に預金準備率を引き下げることを発表していました。

米中貿易摩擦の激化で上海株下落が顕著となっており、政府系機関投資家グループ「国家隊」が株価を支えるために介入しているとも伝えられていますが、国家隊による買い支えも、預金準備率引き下げも効かなくなってきた中国株市場への警戒が再燃しています。

そもそも中国株は年明け1月を高値に下落トレンドが続いており、その中で米国株は史上最高値を更新し続けていますので、マクロマーケットに大きな影響はないという見方もありますが、中国市場が荒れると中国と貿易上のつながりが大きい豪ドルの売り圧力が強まり、これが為替市場での資源関連通貨安につながるという意味では看過できない重要な指標であると思っています。

また来週は、米国による半期に一度の為替報告書の公表が予定されています。人民元はこの半年間でドルに対して9%ほど下落しており、貿易摩擦の影響を自国通貨安でやわらげようと中国当局が意図的に元安に誘導しているとの観測が強まっています。

トランプ大統領は7月、中国とEUが自国通貨を操作し、米国との競争上の優位性を奪っているとTwitterで非難していましたが、来週の為替報告書で為替操作国認定となれば、米国との2国間協議の末、通貨の切り上げを要求される他、必要に応じて関税による制裁を行うとされています。

中国に対し関税による制裁はすでに行われているため、通貨の切り上げ要求が実施される可能性が濃厚。中国がこれに従うとも思えませんが、来週公表される米国の為替報告書の内容如何では、中国市場がさらなる下落となるリスクを秘めています。

米金利が上昇している中で、ドル/円相場の上昇が鈍ってきた背景には金利上昇のスピードが速すぎることへの警戒に加えて、中国リスクを警戒し始めた可能性もあるでしょう。来週の報告書公表時点で米金利上昇が落ち着いたものとなり、その内容が警戒されたほどのものとならなければ、ドル/円の再上昇もあろうかと思いますが、確認できるまでは軟調な展開を強いられそうです。