9月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、政策金利を0.25%引き上げ2.00~2.25%とすることを決定しました。

利上げは今年3回目ですが、2015年12月のリーマンショック後の最初の利上げから数えると今回で8回目となります。米国は3年弱の期間に慎重ではあるものの継続して利上げを実施してきましたが、どの時点で利上げサイクルが終了するのかが関心事項となってきています。

今回のFOMCでメンバーらから、年内12月にあと1回の利上げと、来年2019年に3回、2020年にさらに1回の利上げを行う見通しが示されました。しかし、新たに2021年の利上げが0回との見通しも発表されたことで、市場には「米国の利上げは2020年で打ち止めとなる」との認識が広がりました。

さらに、FOMC声明文で「金融政策のスタンスは引き続き緩和的」との文言が削除され、パウエルFRB議長が物価上昇に慎重な姿勢を示したことなども、今後の利上げペースは緩やかになる可能性がある、との見方の台頭につながりました。この点だけをフォーカスしてみると、今回のFOMCは「ハト派」的内容であったように見えますが、FOMC終了後にはドル高が進行しています。

ドルインデックスは93.80Pの安値から反発し、足下では95Pまで上昇してきました。FOMCは2018年と2019年の米国の成長率予想を上方修正しており、この点をタカ派的とする向きもありますが、利上げ打ち止め感が台頭したFOMCを受けてドル高という解釈にはやや違和感を覚えます。何故FOMC後からドル全面高の様相を呈しているのでしょうか。

ドル/円相場は、FOMC前は111~112円台での推移であったものが114円台までドル高円安が進行しました。先週、マーケットはFOMCよりも日米通商協議に注目しており、これがドル/円相場の上値を抑えていました。しかし、TAG(物品貿易協定)という日米の新たな交渉の枠組みでの交渉中は、日本から米国に輸出する自動車への関税は棚上げされることが明らかとなり、警戒感が後退したことによるドル/円上昇という側面が大きかったようです。

ユーロ/ドル相場は、FOMC直後は上昇していました。つまりユーロ高です。9月19日FOMC前は1.16ドル台でしたが9月24日には1.81台にまで上昇し、ドル安が進行していたのです。

しかし、9月27日、イタリア政府が2019~2021年の3年間の経済財政計画においてGDPに対する財政赤字比率を毎年2.4%としたことで、イタリア売りが加速する展開に。前の民主党政権は緊縮財政を強めており、2019年に0.8%、2020年には0.0%、2021年には0.2%の財政黒字の目標を立てていましたが、新政権下で一気に黒字化目標が後退してしまったのです。イタリアリスクがユーロ売りを招き、結果、ドルが上昇した側面が大きかったのです。

対ポンドはどうでしょうか。英国とEUは10月中の合意に向けてブレグジット交渉を続けていますが、難航しています。9月25日、英国メイ首相が「悪い合意の下で離脱するよりは合意しないまま離脱する方が望ましい」と述べたことで「合意なき離脱」リスク、いわゆるハードブレグジットリスクが再燃しました。ブレグジット交渉の進展で買われ、難航で売られるポンドですが、イタリアリスクが再燃した同じタイミングでしたので、相対的にユーロやポンドなどの欧州通貨が売られ、ドルが買われるという値動きが加速したのです。

FOMCを受けた結果というより、日本、EU、英国のそれぞれの事情によるところの通貨安がもたらしたドル高だったのではないかと考えていますが、欧州通貨に関してはまだ問題は燻ったままです。

ブレグジット交渉は今月18日のEU首脳会議までに、遅くても11月半ばまでには合意しなければ来年3月の離脱に向けた各国の議会承認を得る時間が無くなってしまうため、ここからが交渉の大詰めです。合意が取り付けられればポンドが上昇しドル安に転じるものと思われますが、一筋縄ではいかないでしょう。

また、イタリアの財政問題においては、格付け機関によるイタリア格付けの見直しに注意。すでに8月31日、格付け会社フィッチ・レーティングスはイタリア格付けの見通しを安定的からネガティブ(弱含み)に引き下げていますが、S&Pグローバル・レーティングは10月26日に格付け見直し予定です。

ムーディーズも10月に発表するようです。主要3社のイタリア格付けは現状いずれもジャンク級(投機的格付け)から2段階上ですが、格下げによってイタリアへの投資を見直さざるを得ない機関投資家らが出てくるリスクもあります。この秋は、欧州通貨がドルの方向を占うリスクであることに留意しておきましょう。