「資産づくり」で必要になってくる視点とは?

私は一貫して投資信託を推奨しています。しかし、個々人が株を直接購入して投資する、いわゆる「個別株投資」を否定するものではありません。むしろ、その積極的な姿勢には大いに共感します。投資マネーは社会の血液だと考えています。

金融機能とは、実体経済が活動するための血液を提供しながら利益を得る活動です。資本主義の世界において、投資は最善だと言えるでしょう。例えばよく利用する近所のスーパーを気に入っていて、その運営会社を応援したい、そして利益も得たい、そのためにずっと株式を持ち続けたいということは、美徳だと思います。

とはいえ、応援投資は、将来に向けた資産づくりという意味では、必ずしも最適解とは言えない面があります。なぜなら、企業分析が欠けているからです。資産づくりでは「その会社は持続可能な事業を行っているのか」という視点が必要になってきます。

個別株投資はプロに勝てない?

自分の好きな会社を応援する目的で株式を買うのも、ひとつの投資のあり方です。しかし、それは社会貢献や寄付、あるいは推し活のような意味合いが強いため、資産形成とは別に考えたほうがよいでしょう。株価が上がっても下がっても一喜一憂しない覚悟を持ちたいところです。私は西武ライオンズのファンで年会費を1万円ほど払い続けていますが、どれだけ弱くても文句は言わないと決めています。

もちろん「好き」だけではなく、しっかりと企業分析も行っているなら素晴らしいことです。ただ、人間は時として、合理性を超えて愛着などの思いが先走ることがあります。「地元の大企業でなじみ深い」「長く愛用した商品を作っている」など「好き」がバイアスになることもあるでしょう。

そしてしばしば、そうした思い入れによる投資の結果は報われないことがあります。常に冷静な視点を持っておきたいものです。結論から言えば、個別株でプロに勝つのは非常に困難です。

資産運用の名著『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス著、日本経済新聞出版)に、いくらテニスが好きでもテニスのプロには勝てないといった趣旨の記述がありますが、マーケットも同様だと言えるでしょう。

個別投資ではガバナンスの見極めも求められる

よく個別株に投資をするにあたり「自分の身近なところに着目すると投資のヒントがある」という話を聞きますが、これは間違いではありません。私たちもそういったところから株式を見ることがあります。

街を歩いていて「この店の棚の並べ方はいい」「客の導線が他とは違っている」といったところから調べを進めることもあります。しかし、その結果をもって、すぐに投資するわけではありません。なぜそうなっているかの理由から経営判断を探ります。あるいは役員の数を見ることにしています。

経歴の素晴らしい社外取締役を多数起用しているものの、よく見るといくつもの会社で社外取締役を兼任しているといったケースもあるのです。それらの企業すべてに十分に目を行き届かせるのは難しく、事実上、本来の役割を果たせていない可能性が考えられます。このような場合、ガバナンスにおける問題が疑われます。

限られた資金を限られた企業に投じるリスク、投資信託を選択することは合理的

さらに個別に企業への投資を検討する場合、ROE(自己資本利益率※)などもかなり綿密に調査したうえで、合理的に判断をする必要があります。

ただプロとは違い、こうした専門的な分析を個人で行うのは非常に難しいものです。また、リスク分散の観点からも、数億円単位のポートフォリオを組める資金力がある場合は別として、限られた資金を限られた企業に投じることにはリスクを伴います。したがって、日々の仕事をしながら資産形成を進めるには、投資信託を活用するのが合理的な選択だと言えるでしょう。

今さら聞けない「投資信託」とは何か

ここで投資信託について、改めて説明しましょう。

投資信託は「ファンド」とも言います。投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、専門家が株式や債券などに投資・運用する商品です。運用成果は投資家それぞれの投資額に応じて分配されます。「インデックス」や「アクティブ」というのは投資・運用の手法のことです。

資産運用業協会によると、現在「公募投信」といわれる不特定多数の投資家に向けて募集する投資信託は日本に5800本ほどあり、総計350兆円ほどになっています(2026年8月時点)。

投資信託に関わるのは販売金融会社、運用会社(投資信託会社)、受託銀行の三つです。販売金融会社は文字通り投資信託を売る会社です。運用会社は投資信託を作って投資・運用する会社です。運用会社には大手証券会社やメガバンクの系列、外資系、独立系があります。受託銀行は資産の管理や保管、売買を行います。「〇〇信託銀行」という名前をときどき目にすることがあると思いますが、そういった金融機関が担うことが多いです。

株式や債券などの有価証券(信託財産)を保管・管理したり、万が一、販売金融会社や運用会社の業績が悪化しても顧客の資産を守ったりしてくれます(受託銀行が倒れた場合も、原則として信託財産は全額保護されます)。また運用会社の指示で売買を行い、信託財産の計算をします。

長期投資を続けるには積立がふさわしい

投資信託を購入するときは、まとまったお金を一度に入れる一括と毎月積み立てる積立の2つのパターンがあります。リスクを覚悟しつつ短期で大きな利益を狙いたい場合は一括の方がよいでしょう。少額から始めやすい積立は、タイミングを分散することでリスクも分散する「ドルコスト平均法」で、購入価格が平準化されるのが特徴です。そのため、気持ちを安定させる効果が大きく、長期投資を続けるには積立がよりふさわしい選択肢だと言えるでしょう。

※ROE(自己資本利益率)=会社が1事業年度の営業活動で株主全体にもたらした利益「当期純利益」÷株主が出資したお金など返済する必要のない資産「自己資本」×100%の計算式で求める