円「売られ過ぎ」局面で始められた円買い介入=2022年、2024年
日本の通貨当局は、2022年と2024年に米ドル売り・円買い介入を断続的に行った。このうち、2022年の最初の介入は9月22日に行われたが、この直前のCFTC(米商品先物取引委員会)の投機筋の円ポジションは8万枚の売り越し(米ドル買い越し)だった(図表1参照)。また、2024年の介入開始は4月29日で、この直前の円売り越しは17万枚だった。
経験的に、円売り越しは10万枚以上に拡大すると「行き過ぎ」懸念が高まる。その意味では、2022年の介入は円の「売られ過ぎ」懸念が徐々に高まる中で、そして2024年の介入は円「売られ過ぎ」懸念がきわめて高くなっている中で行われたということになるだろう。
「行き過ぎ」を逆手に取ることを意識か=足下の円「売られ過ぎ」懸念は強くない
為替市場が巨大化する中で、当局による為替介入で相場の流れを変えることは困難になっているだろう。ただし「行き過ぎた動き」であれば、為替介入によって相場が修正に向かうきっかけを作ることは、ある程度可能ではないか。そう考えると、2022年、2024年の介入はいずれも、円売りの「行き過ぎ」を意識した可能性はありそうだ。
では足下はどうかというと、円売り越しは、3月24日時点で6万枚にとどまっている。2022年の介入開始前よりも円売り越しは未だ小幅であることを考えると、介入が円売りの「行き過ぎ」修正のきっかけになるより、むしろ介入でも円安が止まらないようなら、逆にさらなる円売り拡大のきっかけになる可能性すらあるのではないか。
円安・円高の阻止はいずれも、5年MAから±2割以上かい離した水準で介入開始
もう1つ、日本の介入が「行き過ぎ」を意識してきた可能性があると感じさせる例を紹介しよう。2022年の介入開始は9月だったが、その前月末、米ドル/円は5年MA(移動平均線)を24%と大幅に上回っていた。また、2024年の介入開始は4月だったが、その前月末の米ドル/円もやはり5年MAを24%上回っていた(図表2参照)。つまり、2022年、2024年とも米ドル売り・円買い介入は、米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念がかなり高くなっていた中で始まった。
なお、2022年より前の介入は、円安ではなく逆の円高の阻止が注目される局面、2010~2011年の米ドル買い・円売り介入だった。この最初の介入が実施されたのは2010年9月だったが、その前月末の米ドル/円は5年MAを20%と大幅に下回っていた。
以上見てきたように、円安と円高ではそれを阻止する介入は、前者は米ドル売り、後者は米ドル買いと逆になるが、介入が開始されたのはすべて米ドル/円が5年MAから±2割以上のかい離になったところだった。経験的に米ドル/円の5年MA±2割以上のかい離は、円安、円高の「行き過ぎ」圏。そう考えると、これも当局が円安、円高の阻止で介入を判断する際に、「行き過ぎ」を逆手にとることを意識していた可能性を示すものと言えるのではないか。
では足下の米ドル/円の5年MAはどうかというと、160円でも15%程度にとどまっている。2010年以降、円安、円高の阻止において介入を判断してきた5年MA±2割以上をまだ下回っている。その意味では、仮に160円近辺で介入に動いても円安が止まらなかった場合、さらなる米ドル高・円安の「行き過ぎ」拡大が始まるきっかけになる懸念もあるのではないか。
米当局「レートチェック」後、急拡大した米ドル売り
2024年までの日本単独での円安阻止は、160円近辺では困難だとして、1月23日の円安けん制の「レートチェック」と同様に日米協調の米ドル売り介入に動く可能性はあるだろうか。
CFTC統計の投機筋の米ドル・ポジション(主要な非米ドル5通貨=円、ユーロ、英ポンド、加ドル、豪ドルのポジションで試算)は、「レートチェック」の直前、1月20日時点では1万枚と小幅ながら買い越しだったが、その後は1ヶ月程度で20万枚以上に売り越しが急拡大した(図表3参照)。
経験的に米ドル売り越しの20万枚以上は「行き過ぎ」圏である。その意味では、米当局の「レートチェック」後から、米ドル売りは1ヶ月で「行き過ぎ」が懸念されるほど急拡大した。
これは、「レートチェック」でも米ドル売り急拡大のきっかけになるほど、米ドルの地合いの脆弱性を感じさせるものではないか。こうした動きに対して、ベッセント財務長官は、「断じて米ドル売り介入は行っていない」と強い表現で米ドル売り介入を否定した。その米ドル売り介入を、円安阻止のために行うだろうか。もしも行ったなら、それは一転米ドル暴落のトリガーになる懸念はないだろうか。
