「急過ぎる為替の変動」の目安

米ドル/円、次の為替介入の基準とは

米ドル/円が5年MA(移動平均線、10月28日現在126.9円)を再び2割以上上回り始めた。1990年以降で米ドル/円が5年MAを2割以上上回ったのはこれまで5回、逆に2割以上下回ったのは2回あったが、この7回のうち5回で為替介入が行われた(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これは、通貨当局にとっては、米ドル/円が5年MAを2割以上上回る、あるいは下回る動きというのが、一定期間内において急過ぎる米ドル/円の変動の目安になってきたのではないだろうか。そうであれば、当局はここに来て改めて「急過ぎる円安」への懸念を強め始めたとも考えられる。では、実際に円安阻止介入が行われるのだろうか。

2022年以降、通貨当局による円安阻止の米ドル売り介入は6回以上行われたとみられている。この全ては、米ドル/円が120日MAを5%以上上回った水準だった(図表2参照)。そして、しばらく間隔を置いて介入が再開された場合は、前回の介入局面の米ドル高・円安のピークを超えたところで行われていた。

【図表2】米ドル/円の120日MAかい離率(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

足下の米ドル/円の120日MAは151.5円なので、それを5%上回る水準は159円になる。その上で、前回米ドル売り介入が行われたピークの水準は161円台とみられることを合わせると、実際の米ドル売り介入はこの間の米ドル/円の高値161円を更新しない限りは行われない可能性が高いのではないか。

ユーロ/米ドルにおける為替介入の条件とは

それにしても、米ドル/円での為替介入が繰り返されるのに対して、欧米の通貨当局によるユーロ/米ドルでの介入は20年以上も行われていない。なぜユーロ/米ドルでの介入が長い間行われなかったかと言えば、その理由の1つはユーロ/米ドルは介入する必要のない小動きが続いたということではないだろうか。

ユーロ/米ドルは、すでに10年以上も5年MAから±2割以上に変動したことがなかった。一方で、ユーロ/米ドルが5年MAを2割以上下回ったのは2000年だったが、このケースではG7(主要7ヶ国財務相会議)協調ユーロ買い介入が行われた(図表3参照)。以上のことは、5年MAから±2割以上変動した場合は、ユーロ/米ドルでも必要なら為替介入が行われる可能性があることを示しているだろう。

【図表3】ユーロ/米ドルの5年MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

ユーロ/米ドルは、2005年前後に5年MAを3割も上回ったことがあったが、ここではユーロ売り介入は行われなかったようだ。このエピソードが参考になるのは、自国通貨売り介入は、通貨安誘導の「近隣窮乏化」が疑われるリスクがある一方で、自国通貨防衛のための自国通貨買い介入は国際的に許容されやすいということだろう。

この間日本の通貨当局が行ってきたのは後者の自国通貨である円を買う介入だ。イエレン財務長官が「介入はまれであるべき」と言いながらも、日本の米ドル売り介入を追認してきたのも、以上の脈略で考えると理解できるものだろう。