過去1年平均は150円、5年平均は126円=米ドル/円
過去1年の平均値から考える
評価は、何を基準にするかによって変わってくる。そこでまずは過去1年の米ドル/円の平均値を基準に考えてみたい。過去1年の米ドル/円の平均値は52週MA(移動平均線)になるが、それは足下で150円程度なので、141円はそれに比べると米ドル安・円高だ(図表1参照)。過去1年の米ドル/円の変動からすると、141円は円高ということになる。
なお、141円という水準は、52週MAを5%以上と大きく下回ったことになる。今回の米ドル/円の上昇トレンドは2021年1月から展開してきたが、その中でこれほど大きく米ドル/円が52週MAを下回ったことはなかった(図表2参照)。その意味では、複数年にわたる継続的な動きであるトレンドが上昇から下落へ、つまり円安から円高へ転換した可能性を注目する必要のある値動きと言える。
5年MAから考える
次に、過去5年間の平均値である5年MAとの関係を見てみよう。米ドル/円の5年MAは足下で126円程度。従って、141円という水準はまだ10%以上も上回っている(図表3、4参照)。つまり、過去5年の米ドル/円の値動きからすると、141円はまだまだ米ドル高・円安ということになる。
米ドル/円は1980年以降で見る限り、5年MA±3割の範囲を基本的に循環する値動きが続いてきた。今回の161円からの米ドル安・円高への反転も、まさに5年MAを3割上回ったところからの反転となっていた。その上で、これまでの循環パターンからすると、米ドル/円はこの先、5年MAを下回る動きに向かう可能性がありそうだ。
ただし、1980年代には5年MAを4割も下回るまで米ドル安・円高となったが、1990年代には3割程度にとどまり、さらに2000年代に入ると2割程度に縮小した。これは、日米の経済構造変化を受けて、かつてほど円高になりにくくなっていることを示しているのだろう。その意味では、今回の循環的な円高局面は、5年MAを大きく下回らない程度にとどまる可能性がある。
購買力平価から考える
最後に購買力平価との関係を見てみよう。日米の消費者物価で計算した購買力平価は足下でも107円程度なので、141円という水準はそれを3割なお大幅に上回っている(図表5、6参照)。1973年の変動相場制度移行後、これほど消費者物価基準の購買力平価より大きく米ドル高・円安になったことはなかった。その意味では、141円は購買力平価との関係からするとまだまだ大幅な円安と言える。
それにしても、ほんの10年前までは、日米の生産者物価で計算した購買力平価より米ドル高・円安になることすら少なかった。その生産者物価の購買力平価は足下で90円台前半。今回、生産者物価基準の購買力平価まで米ドル安・円高にもはや戻れないなら、それは長期的な日本経済の衰退化を示しているということではないか。