遠距離の親を介護するための選択肢

もしも離れて暮らす親が認知症やがんになったら、皆さんはどのように対応しますか? 

多くの人は以下の4つの選択肢から選んで、介護を始めようとするでしょう。

・故郷で暮らす高齢の親を、子どもの家に呼び寄せる
・子どもが親の実家へ引っ越して、介護をする
・親の家の近くの介護施設に入ってもらう
・子どもの家の近くの介護施設に呼び寄せる

私自身も、この選択を迫られた経験があります。2012年、岩手県で暮らしていた89歳の祖母に子宮頸がんが見つかり、同時に69歳の母が認知症になってしまいました。

当時、私は40歳で、6人のチームメンバーをまとめる商品部のマネージャーとして東京都内の会社に勤務していました。東京と岩手は500kmほど離れており、最寄り駅から東北新幹線で移動しても、最短で4時間以上かかってしまいます。

私は上記4つの選択肢から選ばず、別の方法を選びました。それが「遠距離介護」です。祖母はがんの治療のため岩手の病院に入院し、母は岩手の実家で生活を続ける。私は生活拠点を東京に構えたまま、岩手に通って介護をする決断をしたのです。

遠距離介護を始めて10年以上経ちましたが、今も東京と岩手の往復生活を続けています。母の認知症は重度まで進行しましたが、それでも家で元気に暮らしています。

遠距離介護を知らない方からは、「そんな介護の方法があるなんて知らなかった」と驚かれます。なぜ大変な遠距離介護の道をわざわざ選んだのか、その理由をお話しします。

介護による自分の生活への影響も心配

親の身に何かがあったとき、多くの人は親を心配する気持ちと同じくらい、自分や自分の家族の生活への影響を心配するでしょう。

今の仕事は辞められないし、子どもを育てるためにはお金が必要。住宅ローンも完済できていないのに、介護離職して親の家へUターンなんてできるはずがない。何とかして、今の生活環境を維持する方法を模索します。

そこで思いつくのが、親の呼び寄せです。親が近くに居てくれれば、今の仕事を辞めずに済むし、介護もしやすいと考えられます。しかし呼び寄せも、自分の生活環境を一変させてしまいます。

まず親が生活する部屋を、確保しなければなりません。さらに親を呼び寄せたことで、食事の時間やお風呂の順番など、今までの生活のリズムが崩れてしまいます。家族から不満の声が上がり、近くに部屋を借りて親に住んでもらおうとしても、「もう引っ越しはしたくない」と親が嫌がるかもしれません。

Uターンも親の呼び寄せもできないなら、介護施設に入ってもらうことが考えられます。しかし、親が介護費用を持ち合わせているとは限りません。子どもも親の介護費用を捻出する余裕がない場合は、途方に暮れてしまうでしょう。

最初にご紹介した4つの選択肢の中で悩み、介護をめぐって夫婦や兄弟、親と子の間で不仲が生じることも考えられます。

家族の希望を叶えた遠距離介護

私の場合、「母は愛着のある岩手から出たくない、最期まで住み慣れた自宅で暮らしたいと言っている。私は東京の生活を守りたいし、岩手には帰りたくない」という希望を叶えたかったので、遠距離介護を選びました。

当時は遠距離介護という言葉すら知らず、できるかどうかわからないままスタートしました。しかし今となっては母にとっても私にとっても、そして介護の面においてもベストな方法だと思えるようになりました。

介護を受ける親の立場で考えてみましょう。心身ともに元気だったら、年齢に関係なく新しい場所で生活してもよいと思えるかもしれません。しかし、もの忘れがあったり、体が不自由であったりすると、生活環境を変えるのは大変なことだと思います。

リロケーションダメージという言葉をご存じでしょうか。新しい生活環境に馴染めずに家に引きこもってしまって、ストレスを抱えて体調を崩してしまうことを言います。特に高齢者の方に症状が出やすいとされています。

現在79歳の母は、出身地である岩手県盛岡市以外の場所で生活した経験がありません。そんな母がいきなり、東京の私の家で暮らすことになったらどうなるでしょうか。あまりの環境の変化に混乱して、家から一歩も出なくなると思います。

遠距離介護のメリットとは

こうして始まった遠距離介護を、なぜ10年以上も介護施設ではなく自宅で続けられたのでしょう。

私は母が認知症を患いながらも、自分でできることは自分でやってきたからだと思っています。もし一緒に生活していたら、母のできることまで私がやってしまっていたかもしれません。

遠距離介護の場合、子どもが近くで手助けできない分、親にできるだけ自立してもらう必要があります。私はこれが遠距離介護の最大のメリットだと思っています。

次回以降の記事では、実体験に基づいて遠距離介護や認知症介護についてお伝えしつつ、介護に必要なお金の捻出方法や、介護離職後の私の投資経験なども取り上げていく予定です。