行き過ぎ相場終了後のプライスパターン

米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率はプラス30%程度まで拡大してきた。このように、5年MAかい離率が±30%程度まで拡大したのは、1980年以降でもこれまで4回しかなかった(図表1参照)。その意味では、今回の米ドル高・円安も、記録的に行き過ぎた動きになっていると言えそうだ。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率(1980年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

では、今回と同様または今回以上に行き過ぎた動きとなった相場は、それが終わった後どのような展開になっただろうか。直感的には、行き過ぎた円安または円高が終わった後は、その反動により逆方向、つまり円安の場合なら円高へ、円高の場合なら円安へ急転換するような気がするが、必ずしもそうではなかった。

5年MAかい離率がプラス30%以上に拡大した2015年と1998年の場合

例えば、今回と同じ5年MAかい離率がプラス30%以上に拡大したのは、2015年と1998年だった。このうち2015年のケースは、6月の125円で行き過ぎた円安は終了したが、その後も半年程度は120円台前半を中心とした一進一退が続き、顕著に円高へ動き出したのは2016年に入ってからだった(図表2参照)。その意味では、当時は円安が終わってもその後の半年程度は、まだ円安は続いていると感じている人が多かったのではないか。

【図表2】米ドル/円の推移(2015~2016年)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

1998年のケースは、8月に147円で行き過ぎた円安が終了すると、一転して急激な円高に変わった。10月にかけて約2ヶ月で110円割れ近くまで米ドル暴落、円の急騰となった(図表3参照)。このケースは、行き過ぎた円安が終了した後、まさに円高へ急転換となったわけだ。

【図表3】米ドル/円の推移(1998年)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

これは、同年8月のロシアによる突然の通貨・ルーブル切り下げに端を発し、9月に大手ヘッジファンド危機、「LTCMショック」が起こり、さらに10月には中南米危機が起こるなど、「ショック相場」が連鎖したことに巻き込まれた影響が大きかった。

5年MAかい離率がマイナス30%以上に拡大した1995年と1987年の場合

今度は、今回と反対方向、5年MAかい離率がマイナス30%以上に拡大した1995年と1987年のケースについてみて見よう。1995年の行き過ぎた米ドル安・円高は、4月の80円で終わった。ただ6月にかけての2~3ヶ月は、80円台前半中心の一進一退が続いたので、当時はまだ円高が終わったと感じていた人は少なかっただろう(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円の推移(1995年)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

この相場が円安に大きくかつ急激に動き出したのは、「異色の財務官僚」、榊原英資氏が日本の通貨当局の幹部に抜擢され、「ミスター円」と呼ばれるほどの八面六臂の大活躍を見せたことがきっかけだった。結局この円安は、1995年の80円から1998年には147円まで続いたことから考えると、行き過ぎた米ドル安・円高の反動に伴う米ドル高・円安へのエネルギーは大きかったと考えられるが、それが噴出するための「きっかけ」は必要だったということではないか。

1987年の行き過ぎた米ドル安・円高は、同年12月120円で終わった。この始まりは、1985年の米ドルの実質的な大幅切り下げ「プラザ合意」がきっかけだったが、1987年10月にブラックマンデー、NY発世界同時株暴落が起こった後からは、米ドルの下落もほとんど制御不能のようになり、それが12月の120円でようやく歯止めがかかったというものだった。

ただその後も、1988年のほぼ1年を通じ、米ドル/円は120~130円中心での一進一退が続いたので、まだまだ米ドル暴落が終わったと感じていた人は少なかったのではないか(図表5参照)。

【図表5】米ドル/円の推移(1987~1988年)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

以上、米ドル/円の5年MAかい離率が±30%以上に拡大した円安、円高の極端な行き過ぎた相場が終わった後の展開について見てきたが、行き過ぎた相場が終わった後も、逆方向への動きは、ショック相場に巻き込まれたり、「きっかけ」がないとすぐに激しいものにはなりにくかったようだ。

行き過ぎた米ドル高・円安、今後の展望は

今回の場合は、米インフレ対策の利上げに連れて行き過ぎた米ドル高・円安が展開してきた。この大幅かつ急ピッチの金利上昇による、景気の急激な悪化や「××危機」の発生には注意が必要だろう。ただそういったことがなければ、行き過ぎた米ドル高・円安は、結果的に終了した後も、しばらくそれが実感できない状況が続く可能性はありそうだ。