「未体験の円安」の分岐点とは?

円安が止まらない。これは、これまで経験したことのないといった意味で、「未体験の円安」が始まっているということなのか。結論的に言うと、さすがにまだそこまでには至っていないのではないか。その上で、とくに短期、長期の移動平均線との関係などから、どこまで円安が進んだら「未体験の円安」を警戒する必要があるかについても考えてみる。

例えば、米ドル/円の90日MA(移動平均線)との関係を見ると、1990年以降では1割上回ると「上がり過ぎ」、そして最高でも15%上回ったケースが一度あっただけだった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の90日MAかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

ちなみに、足元の米ドル/円の90日MAは117円程度。従って、それを1割上回る129円を超えてくると短期的な「上がり過ぎ」懸念が強まり、さらに15%上回る135円を超えてくるようなら、「未体験の円安」を警戒する必要が出てくるといった感じではないか。

似たようなことを、より長期の移動平均線である5年MAとの関係でも確認してみよう。足元の5年MAは110円程度だが、経験的にはそれを2割上回ると「上がり過ぎ」、そして1980年以降で最も上ぶれたのは2015年の33%だった(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円の5年MAかい離率 (1980年~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

足元の5年MA、110円を2割上回る水準は132円、そして33%上回るのは146円といった計算になる。以上からすると、130円を大きく上回ってくると「上がり過ぎ」懸念が強まり、さらに150円に向かうようなら、これまで経験したことのないといった意味で「未体験の円安」が始まっている可能性を警戒する必要が出てくるのではないか。

最後に、円のポジションについても確認してみよう。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、先週までに円の売り越しが11万枚以上に拡大したが、2015年以降で見ても13万枚以上に拡大したこともあった(図表3参照)。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション (2015年~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

長く小動きが続いた円相場が急に円安へ大きく動き出したが、以上見てきたことからすると、ここまではまだ経験内の円安と言えそうだ。この先さらに130円を大きく超えてくるようなら、これまで経験したことのないといった意味で、「未体験の円安」が始まっている可能性への懸念が高まってくるのではないだろうか。