米国より日銀との関係が鍵

円安の日本経済への悪影響を懸念する声が増える中で、日本政府は1998年以来、約24年ぶりに米ドル売り・円買いの為替介入に動く可能性が高まってきたのではないか。米ドル売り・円買い介入が実現するなら、早ければ1米ドル=130円前後で、2兆円以上の規模で行われる可能性が考えられそうだ。

為替介入の目的は主に2つ。1つは為替相場の急過ぎる動きをけん制すること。そしてもう1つはファンダメンタルズからかい離した為替相場の是正。ではこれらは具体的にはどんな意味になるだろうか。

財務省は1991年以降の為替介入実績を公表している。それを元に、主な円売り、円買い介入の開始のタイミングを、米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率に重ねたのが図表だ。これを見ると、1990年以降で米ドル/円の5年MAかい離率がプラス20%以上に拡大したのは4回あったが、このうち3回で為替介入が行われていた。

【図表】米ドル/円の5年MAかい離率と為替介入開始の関係 (1980年~)
出所:リフィニティブ社データ及び財務省データをもとにマネックス証券が作成

以上から推測されるのは、5年MA、つまり過去5年の平均値から2割以上かい離するといった動きは、「急過ぎる動き」として為替介入を行う条件を満たした可能性があったということではないか。そうであるなら、足元の米ドル/円の5年MAは110円程度なので、130円を超えてくるとそれを2割上回る計算になるため、「急過ぎる動き」として為替介入が行われる可能性があるだろう。

為替介入を行う場合は、数兆円といった具合に大規模になる可能性が高いだろう。これまでのところの最後の為替介入は、2010~2011年にかけて米ドル買い・円売りで実施されたものだが、この時の最初の介入額は、財務省の資料によると2兆1千億円だった。またこの一連の米ドル買い・円売り介入における最高額は8兆円だった。

ちなみに、これまでのところの最後の米ドル売り・円買い介入は1998年に行われたものだったが、その一連の介入における最高額は2兆6千億円だった。以上から推測すると、今回も最初の米ドル売り・円買い介入は2兆円以上の規模で行われる可能性が高いのではないか。

日本政府が円安阻止の介入を行う場合、米国がインフレ対策から米ドル高を容認していることが障害になるのではないかとの意見もあるようだが、基本的には関係ないだろう。米経済にとって米ドル高は問題ないものの、日本経済にとって円安は悪影響となっているといった具合に、為替相場の経済に及ぼす影響が日米で異なるといったようなことは特に珍しいことではない。

米経済にとって問題ない為替相場でも、日本経済には問題があり、しかもそれが過去5年の平均値から2割もかい離するほど一方的な動きなら、日本独自で為替対策に動くのは当たり前だろう。米経済にとって問題ない為替相場であるにも関わらず、米国が協力する日米協調介入でなければ効果がないといった指摘をするのは、冷静になるとわけが分からない話だ。

そもそも、これまでのところの日本政府における最後の為替介入、2011年の円高阻止介入は、最後まで日米協調介入がなかったものの、米ドル安・円高は終了するところとなった。このケースは、米経済にとって米ドル安は問題なかったものの、それでも円高が行き過ぎた動きになると、日本単独介入でも円高は終わったということだろう。

むしろ注目されるのは日銀の金融政策との関係だろう。円買い介入は、金融政策としては引き締め効果になる。現在のように、日銀が過度な長期金利上昇を容認しないといった金融緩和を継続している中で、それと逆行する円買い介入の効果には限度があるだろう。以上から、円買い介入実施の最大の焦点は、日銀の金融政策といかに整合性をとれるかということになるのではないか。