今年の大発会は500円超の大幅高と幸先いいスタートとなった。日本証券新聞によると、上昇幅(510.08円)は1992年、1996年、2018年に次ぐ史上4番目の高水準とのことだ。また同紙は「発会高は年間高」のアノマリーに触れ、発会上昇となった過去46回の年間騰落は32勝14敗(勝率69.5%)と紹介している。つまり大発会が高かった年は、年間でも約7割の確率で株価が上昇するということだ。

大発会で目立ったのがトヨタ(7203)の大幅高だ。115円台をつけた円安に加え、この日の日本経済新聞朝刊が「トヨタ自動車は2025年にも、次世代車の加速や安全制御機能などを一括で動かす頭脳にあたる基本的な車載ソフトウエアを実用化する」と報じたことが買い材料になった。トヨタは一時、132円高の2,237円50銭まで上昇し、昨年11月17日に付けた株式分割考慮後の上場来高値を約1ヶ月半ぶりに更新した。半導体不足の解消による生産回復の期待も追い風になった。

さらに米国市場でもトヨタのADRが大幅に上昇した。トヨタの2021年の米国市場の新車販売台数が233万台となり、ゼネラル・モーターズ(GM)を抜いて首位になったとの報道が好感された。

複数の好材料の中でも、やはり「車載ソフトウエアを実用化」のニュースのインパクトが大きいと考える。これはトヨタの自動車生産に対する「思考」が、テスラのそれに追いついたことを意味する。すなわち、クルマの性能の進化は「買い替え」によってではなく、ソフトを「アップデート」することで手に入れるという発想である。クルマ作りの中心にソフトウエアを据えたということだ。

「クルマ(vehicle)」という製品にとってもソフトが中心だが、トヨタという「自動車メーカー」にとってもソフトウエアが中心に位置づけられるようになった。

実は20年度までトヨタのバランスシートには「無形資産」という勘定科目が存在しなかった。無形資産と考えられるソフトウエアなどはあるものの、50兆円を超すトヨタの総資産と比べると数字が小さく、「記載するには値しない」と同社が判断したからである。(2020年5月16日付 日経新聞「見えない資産」に注目を コロナ禍から反転攻勢へ)

それが今や1兆円の無形資産を計上している。これは同社が保有する土地と同じ額であり、工場など建物の5分の1に匹敵する額だ。もはやクルマは工場でヒトが作るものではない。ソフトウエアのプラットフォームで作るもの。バーチャル空間を利用した大量のシミュレーションで設計し、つながったネットワークからの情報を取得して改良していく。こうした思考にトヨタはたどり着いたのだ。

これこそ真のDXである。DXとは単なるデジタル化ではない。事業構造を根本的に変革するトランスフォーメーションを伴うデジタル化がDXである。

日本で真のDXに踏み出している企業はまだ少数だ。しかし、トヨタは間違いなくその1社である。

今日もトヨタは大幅続伸(前引け現在)。ソニーG(6758)も大幅続伸だ。一時1万5670円まで買われ、株式分割考慮ベースで2000年3月上旬以来およそ21年10カ月ぶりの高値を付けた。日立(6501)、NTT(9432)も大幅続伸。これらに共通するのは単なるデジタル化ではなくトランスフォーメーションを伴う真のDX企業に変革しているという点だ。

新年の相場は何が今後の企業価値評価の中心となるかを雄弁に物語っている。