足元は「行き過ぎた円安」に程遠い

2021年は102円から115円まで、米ドル高・円安が比較的大きく進んだ。その中で、これは日本経済にとってはデメリットの方が大きい「悪い円安」だといった意見も出てきた。ではそんな米ドル高・円安は、2022年さらに進むかどうかについて、今回は長期移動平均線、5年MA(移動平均線)との関係から考えてみたい。

上述のように、2021年は比較的大きく米ドル高・円安が進んだが、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率で見ると、115円という水準は同かい離率がプラス5%に拡大したに過ぎない(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の5年MAからのかい離率 (1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

5年MAからのかい離率で見ると、円安でも円高でも極端に行き過ぎた動きとは、±20%以上に拡大したケースだっただろう。それは、1990年以降で円安、円高各2回、合計4回しかなかった。

米ドル高・円安における2回は、1998年148円でピークを打った局面と、2015年125円でピークを打った局面。前者では、日本の通貨当局は円安を止めるべく米ドル売り・円買い介入を行っていたのだから、まさに「行き過ぎた円安」と認識されていたことだろう。そして後者では、黒田日銀総裁が、「円の実質実効レートからすると、さらなる円安は普通ありそうにない」との発言をきっかけに円安は一巡となった。

念のために、米ドル安・円高で、5年MAからのかい離率が20%以上に拡大した2回のケースについても見てみよう。1つは、1995年、史上初めて1米ドル=100円を超える円高、「超円高」が80円で一巡したケース。そしてもう1つは、2度目の「超円高」が、2011年75円で一巡したケースだ。

以上のように見ると、5年MAからのかい離率が±20%以上に拡大した1990年以降の4回のケースは、確かに歴史的な円安、円高の「行き過ぎ」相場だったことがわかるだろう。ちなみに、足元の米ドル/円の5年MAは109.6円程度なので、これを20%上回るなら130円を超える計算になる。これまで見てきたことからすると、今回の局面では130円を超えてくるなら、行き過ぎた米ドル高・円安の可能性が出てくるものの、115円程度では「行き過ぎた円安」という理由から米ドル高・円安が止まる可能性はまずは考えられなさそうだ。

円安トレンドのピークアウト・パターン

次に、2000年以降の円安トレンドのピークと5年MAの関係から考えてみたい。2000年以降の円安のピークは、2002、2007、2015、2016年の4回あった(図表2参照)。この4回はおおむね、5年MAからのかい離率がプラス10%以上に拡大していた(注.2007年のケースは僅かに同かい離率がプラス10%に届かなかった)。

【図表2】米ドル/円と52週MA (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

これを参考にすると、基本的に5年MAからのかい離率がプラス10%以上に拡大するまで円安は続く可能性がありそうだ。足元の5年MAは109.6円程度なので、それを10%上回った水準は120円といった計算になる。

以上のように見ると、5年MAとの関係で見ても、115円程度は「行き過ぎた円安」とは程遠く、また過去の円安トレンドのピークアウト・パターンにも達していないと言えそうだ。