米ドル/円のもみ合い「上放れ」パターン

米ドル/円の一段高は、テクニカルに見ると、1月末にそれまで半年以上も超えられなかった90日MA(移動平均線)をブレークしたところから急拡大に向かった形となっている(図表1参照)。ところで、これを90日MAからのかい離率で見ると、90日MAを上限、それを2%下回った水準を下限とした2%程度の狭いレンジの「上放れ」でもあった(図表2参照)。

【図表1】米ドル/円と90日MA (2020年4月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成
【図表2】米ドル/円の90日MAからのかい離率 (2020年4月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

2%とは、当時の米ドル/円の水準からすると2円程度だ。たった2円のレンジ内での小動きが半年以上も続くと、エネルギーは相当溜まっていたことが想像に難くない。その意味では、最近にかけての米ドル一段高は、長く続いたもみ合いからの「上放れ」に伴うエネルギー発散ということが1つの本質と考えられる。

では、長く続いたもみ合いからの「上放れ」は、どんな米ドル一段高をもたらす可能性があるのか。今回と比較的似ていると考えられた2つのケースを見てみよう。長く続いたもみ合いからのブレークは、米ドル/円の場合4年に1度の米大統領選挙前後に起こることが多かった。その中でも、今回と比較的似ていると考えられたのは2012年と2000年のケースだ。

2012年のケースでは、11月の米大統領選挙の少し前まで、米ドル/円はまさに今回と同じように、90日MAを上限、それを2%下回った水準を下限とした2%程度の狭いレンジでのもみ合いが半年近くも続いていた(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円の90日MAからのかい離率 (2012年4月~2013年3月)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

しかし、10月中旬に90日MAを上抜けると、約1ヶ月後には90日MAからのかい離率は5%近くまで拡大、そして4ヶ月後に同かい離率が10%以上に拡大したところでピークアウトとなった。90日MAを10%以上上回るまでの米ドル一段高というのは凄い動きだったが、これはその後「アベノミクス円安」のスタートとされた歴史的大相場の1つだった。

もう1つは2000年の米大統領選挙のケース。この時も、11月の大統領選挙前後まで、米ドル/円は90日MA±2%といったレンジ内での一進一退が半年以上も続いた(図表4参照)。この時の米大統領選挙は、前代未聞の一部集計やり直しとなり、勝敗の決着がすぐにつかない異例の展開となったものの、正式な結果が出る前、11月下旬にレンジを上抜けると、約1ヶ月半で、90日MAからのかい離率は8%程度に急拡大となった。

【図表4】米ドル/円の90日MAからのかい離率 (2000年4月~2001年6月)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そして、一旦縮小に転じたものの、その後改めてかい離率は拡大し、ピークアウトとなったのは、やはりレンジ・ブレークから4ヶ月後のことだった。

以上のように見ると、長く続いたもみ合いを「上放れ」すると、やはり今回のように一方向に大きく動きやすかったようだ。その上で、そんな「上放れ」は、上述の過去の2例を参考にすると1ヶ月程度で一服、そして4ヶ月程度で一段落していた。

今回、90日MAを上抜けたのは1月末。その意味では、「上放れ」はもう一服したのかもしれないし、まだならいつ一服してもおかしくないが、そんな調整を経ながら5~6月にかけて米ドル高・円安を試す局面が続く可能性があるといった見通しになりそうだ。