岸田文雄首相は本日8月14日、首相官邸で記者会見し、9月の自民党総裁選に出馬しない意向を表明した。記者会見の冒頭、首相は「今回の総裁選は自民党が変わる姿、『新生・自民党』を国民の前にしっかり示すことが大事だ。自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と述べた。

これは非常に重要なポイントである。岸田首相は自ら退陣する代わりに、自民党の長老たちの「キング・メーカー」としての力も封印したのである。

普通に行けば、次の総裁選は「麻生さん×菅さん」の力関係で決まっていただろう。ところが、今回はそうはいかなくなった。政治資金問題でかつてないほどの逆風が自民党に吹く中、これまでと同様に党の長老が密室で総裁を選ぶということを繰り返しては、今度こそ国民から愛想を尽かされる。まったく自民党は変わらない、変わりようがないのだと。

自民党が変わる姿、『新生・自民党』を国民の前にしっかり示すことが大事だということは、自民党の議員が一番よくわかっているはずだ。だとすれば自民党内部からもそのような方法での「総裁選び」は支持されないだろう。

時は2ヶ月近く前に遡る。6月下旬までは岸田首相は続投の意欲を示していた。そんな岸田首相に対して菅さんが事実上の退陣要求を行った。文芸春秋のオンライン番組で、「自民が先頭に立って法案を提出し、議論をリードしていくのがある意味で当然だった」と述べ、首相の対応を批判した。そして9月の総裁選について「自民の刷新の考え方を国民に理解してもらえる最高の機会だ」と述べた。「刷新」というのは、すなわち「総裁の首を挿げ替える」という意味だ。非主流派の代表格で、首相経験のある重鎮の発言だけに、党内では早速、反響を呼んだ。「岸田おろし」の風はこの発言を契機に高まってきた。

今回の岸田首相が会見の冒頭で述べた言葉は、因縁の相手である菅さんの「刷新」に対する意趣返しである。自分が辞める代わりに、長老による院政も封印してもらう、ということだ。そうでなければ、「刷新」になりませんよ、ということである。

一方、麻生さんは岸田首相の後見人で、岸田政権の「主流派」の要だ。しかし、麻生さんは先の通常国会で、改正政治資金規正法を巡る首相の対応に不満を抱き、その時から二人の間にすきま風も吹き始めたと言われる。麻生さんとの関係修復を図りたい首相の意向で、異例の2週連続で会食に応じたものの、今回、岸田さんが「不出馬」を表明したからには、その溝は埋まらなかったということだ。であれば、当然、岸田さんは麻生さんも敵に回している。いまだに派閥を解散していない麻生派は旧態依然たる自民党の象徴である。岸田さんは「自民党が変わる姿、『新生・自民党』を国民の前にしっかり示す」と述べて身を引くことで麻生さんをも牽制している。岸田さんは「透明で開かれた選挙、何よりも自由闊達な論戦が重要だ」とも語った。その言葉からもキング・メーカー排除の意向が強く感じられる。麻生さんの息がかかった人物の総裁就任はないだろう。

結論として、「刷新」感のない人物の総裁就任の可能性は低下したと考える。国民の人気で言えば石破さん、小泉進次郎さんだろうが、詳細は書かないが現実問題としてないと思う。高市さんもないだろう。河野さん、茂木さんもさらにない。消去法的に、若手の芽が出てきた。小泉さんはその若手の最有力だが、前述の通り、今回はないと思う。

ダークホースだが、小林鷹之前経済安保担当相に注目したい。彼が仮に総裁に選ばれるならば、自民党は変わったとアピールになる。それは日本の政治が、そして日本と言う国が大きく変わる可能性を示すものである。

岸田首相の不出馬報道で市場は乱高下し、午後1時30分現在の日経平均はほぼ横ばいだ。政治の状況が不透明になるというのは、相場としてリスク(=不透明要因)が高まったということだから、様子見は当然である。

しかし、リスクはチャンスでもある。今回、本当に自民党の「刷新」を内外に示すことができれば、日本に対する評価も変わる。株高のきっかけにもなり得るだろう。

また、新しい総裁のもとで支持率が高まれば、その機に乗じて解散・総選挙という思惑も台頭するだろう。より実利を好む市場関係者としては、そのシナリオで買いの機運が高まることを期待する向きも多くいるだろう。