「やれない介入」はなかった
日本の通貨当局である財務省は、1990年以降の為替介入の実績を公表しているが、それによると、米ドル/円が過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)から±2割以上かい離したケースでは、基本的に介入が行われてきた。同ケースは、1990年以降ではこれまで5回あったが、そのうち4回は介入が行われた(図表参照)。
唯一の例外は2015年にかけて米ドル高・円安が展開したケースで、この時だけは米ドル/円が5年MAを2割以上上回る中でも、結果的に為替介入は行われなかった。当時は日銀の大胆な金融緩和を受けた円安により、デフレからの脱却を目指すというアベノミクス時代だったので、円安容認は特殊例と考えるのが基本だったのではないか。
以上からすると、米ドル/円の過去5年の平均値である5年MAから±2割以上かい離するという動きを「行き過ぎた動き」とした場合、それに対して、政策的に介入しなかった例(アベノミクス)はあったものの、「介入できなかった」例はなかったようだ。
米ドル/円の5年MAは、10月末で118.6円。従ってそれを20%上回る水準は142.4円程度という計算になる。その意味では、アベノミクスの円安容認局面と異なるなら、経験的には142円を大きく超え始めたところから、円安阻止介入はいつ行われてもおかしくなくなっていたということではないか。
2022年9月に行われた米ドル売り・円買い介入は、8月末の5年MA、111.7円を3割近く上回る中で行われた。要するに、過去の介入に比べると初動が遅かった。ただし、当時は約40年ぶりのインフレ対策での米利上げが続く中で、それに連動した米ドル高・円安を止めることは簡単ではなさそうだったため慎重に行動した。すなわち戦術的判断の影響が大きかったのではないか。
上述のように、10月末の米ドル/円の5年MAは118.6円程度なので、先週末151円を大きく超えてきたことで、5年MAかい離率は27%以上に拡大、つまり20%を大きく上回り、着実に30%に近付いてきた計算だ。以上を踏まえると、アベノミクスとは異なり、その上で2022年と同じほど5年MAからかい離した米ドル高・円安となる中では、さすがに円安阻止介入の可能性は高くなってきたということではないだろうか。
では、実際に介入が行われた場合、米ドル/円への影響はどうか。2022年には9月22日、10月21、24日の3回介入が行われたが、いずれも最大で米ドル/円は5円前後の急落となった。それは、9月22日が2兆円、10月21日に至っては5兆円もの大規模な米ドル売り介入が行われた影響が大きかっただろう。今回の場合も、円安阻止介入が行われた場合は、やはり相応の効果はあるのではないか。