過去最大規模の介入が行われた2003~2004年

米ドル高・円安が続く中で、日本の通貨当局の米ドル売り・円買い介入への注目も高い。そんな今回の為替介入を考える上では、主に過去2回の介入局面が参考になるかもしれない。

その1つは、2003年1月から2004年3月にかけて、1年以上にもわたって行われた米ドル買い・円売り介入局面だ(図表1参照)。米ドル安・円高という今とは逆の局面だがなぜこの介入局面が参考になるかというと、現在の為替介入の実質的責任者である神田財務官は、この当時為替介入を担当する財務省国際局為替市場課の幹部の1人だったからだ。

【図表1】2003~2004年の米ドル/円と為替介入局面
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

9月22日に為替介入が行われるまで、日本の通貨当局による為替市場への介入は2011年を最後に10年以上も行われなかった。その意味では、通貨当局である財務省の中でも、為替介入の経験者は少なくなっていただろう。そうした中で、為替介入の実質的な責任者である神田財務官は、為替介入の経験者であり、しかも関わったのは、介入額としては過去最大といった本格的な介入局面だった。

財務省が公表している1991年4月以降の為替介入額の累計は、2022年9月に実施された2兆8千億円を除くと約85兆円であり、そのうち約80兆円が円売り介入だった。そして、このうちの4割以上に相当する35兆円の円売り介入が行われたのが、2003年1月~2004年3月の局面だった。

1年以上もの長期に渡り、最大規模の米ドル買い介入が行われたことで、当時の介入政策の実質的な責任者だった溝口財務官は「ミスター・ドル」との異名で呼ばれた。長期に渡った大規模な為替介入においては、いろいろな手法が試された。介入した事実を当面伏せる「覆面介入」、また米国がこの介入を了解していることを暗に示すNY連銀への「委託介入」など。そんな介入の実務経験が豊富な神田財務官が、今回の介入局面の実質的責任者になっている点は、少し興味深いところではある。

もう1つ、注目したいのはこれも米ドル安・円高局面の例だが2010~2011年にかけて行われた為替介入だ(図表2参照)。この局面における最初の介入は、2010年9月15日、82円程度で行われたと見られた。当時の米ドル最安値は80円だったので、米ドル最安値更新前に、最初の米ドル安・円高けん制に動いたと考えられる。

【図表2】2010~2011年の米ドル/円と主な為替介入
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そして2度目の介入は、最初の介入から半年も過ぎた中で行われた。2011年3月11日、東日本大震災をきっかけに、ついに米ドル最安値の80円を割り込んだ中で行われた。さらに、3度目の介入は、そんな2度目の介入があった時の米ドル安値更新のタイミングで行われた。

また、以上3回の介入のうち、2度目を除く2回の介入額は数兆円もの大規模で行われた。さらに、4度目、2011年10月31日に行われた米ドル買い・円売り介入は、これまでのところ1日の介入額としては最大の8兆円にも上った。以上の介入戦略は、重要な水準を更新したタイミングでカウンター・アタック的に、数兆円もの大規模で行うというようにまとめられるのではないか。

今回、2022年9月22日、最初の米ドル売り・円買い介入は、145円台後半で行われたと見られた。これは、1998年の米ドル高値、147.6円更新前にけん制に動いたということではないだろうか。そうであれば、2010~2011年の介入戦略が参考になっているように見えなくない。重要水準を超えて、カウンター・アタック的な対応が可能な局面において、大規模介入といった「量」で圧倒することが、介入戦略として意識されている可能性があるのではないか。