住居系銘柄の収益特性
2021年9月でJ-REIT市場がスタートして20年になった。その点からJ-REIT投資を始める上で押さえておきたい用途別の特徴とコロナショックの影響について記載していく。以前のコラムで取り上げたオフィス系・物流系銘柄に続き、今回は住居系銘柄について記載する。
賃貸住宅(レジデンス)の収益特性としては、収益の安定性が高いことが挙げられる。他の用途とは異なり、家賃(賃料)の変動幅が小さいためだ。賃貸住宅の場合、競合する物件が多いことからタワーマンションなどの特殊な物件を除けば賃料は一定範囲に収斂しやすい。
またJ-REITは複数物件を保有しているため、入居者の入退去の影響を受けにくい。例えば住居系銘柄でポートフォリオが最大規模のアドバンス・レジデンス投資法人(3269)は、272物件を保有し賃貸可能戸数は21,569戸(2021年9月末時点)となっている。
春先といった入退去が多い時期という部分での影響は受けるが、個別物件の近隣に競合物件が多く建築されてもポートフォリオとしての影響は軽微となる。
また住居系銘柄は、物件売却に対する障害が少ないという特性もある。J-REITの場合、賃貸収益を原資として投資家に分配を行うが、物件売却を行うとその分の賃貸収益が減少することになる。住居系銘柄はポートフォリオの分散効果が高いため、複数物件を売却しても、他用途系の銘柄と比較すれば賃貸収益への影響を少なく出来る。
このような収益特性があるため、私はJ-REITの個別銘柄への投資を最初に行うときには、住居系銘柄から選ぶことを推奨する場合が多い。
住居系銘柄に中長期目線で投資する際の注意点
一方で収入部分の安定性は高いが、中長期的な投資を考慮する上で把握しておくべき2点のデメリットが存在する。
1点目は、住居系銘柄は借入金比率が他用途と比較して高いという点だ。前述の通り、収益の安定性が高いため高い借入金比率自体に問題はないが、中長期的には、金利の上昇は不可避な状況だ。
金利上昇によって分配金の原資が少なくなる可能性がある。したがって、住居系銘柄に投資する際には、借入金の長期化や固定金利比率が高いなど保守的な財務運営を行っている銘柄を選びたい。
2点目は、消費税増税の影響を受けるという点だ。家賃は非課税であるが、大半の業務を外部委託するJ-REITの場合、委託関係費用は課税対象となっている。
つまり委託関係の費用は消費税の税率が上昇した分、増加することになる。当面の消費税増税は想定されていないが、中長期的には税制改正があるかもしれないとすれば住居系銘柄への投資を行う場合は留意しておく必要がある。
コロナショックが賃貸住宅に与えた影響と今後の見通し
コロナショックの影響としては、東京都心部の人口が減少するという悪影響が生じた。J-REITの住居系銘柄は、保有物件の東京都心23区内比率が90%を超えるコンフォリア・レジデンシャル投資法人(3282)(以下CRR)を筆頭に、東京23区内の物件保有比率が高い銘柄が多い。したがってコロナ禍によって住居系銘柄の稼働率は、一定程度低下することになった。
しかし、CRRの稼働率は2021年1月期の95.1%をボトムとして反転し7月期には、95.5%まで回復している。CRRの稼働率はコロナ禍とは全く関係していない2015年1月期に95.0%であったことも併せて考慮すれば、コロナ禍の影響は軽微であったと考えられる。
オフィスとは異なりコロナ禍の影響が少なかった要因として、人口減少の比率が極めて小さかったことが挙げられる。東京23区内の人口は2021年9月1日時点で970万人を超えているが、コロナ禍の影響を受けて東京23区内の人口が減少に転じた2020年5月から2021年8月までの転出超過人数は6万3千人弱となっている。この期間で人口は僅か0.6%しか減少していない。
また人口減少の要因は、転入者の減少による影響も大きいため、コロナ禍の影響が少なくなれば転入超過になる可能性が高い。テレワークの影響は皆無とは言えないが、一定程度の出社を必要とする会社も多いため、首都圏全体で見れば更に影響は少なくなると考えられる。
一方で、コロナ禍によるプラス材料もあった。外資系を中心に日本への不動産投資が拡大しているため、住居系銘柄は物件売却益を計上することで前述の稼働率低下が分配金に与える影響を回避できている。
但し、収益の安定性という点から投資家の評価が高くなっており、価格上昇に伴い利回りは大幅に低下している銘柄が多い。ここまで記載した住居系銘柄のプラス材料は、価格面では既に織り込まれていると考えられる。
したがって住居系銘柄を推奨することが多いとは述べたものの、これから住居系銘柄に投資する場合には、財務の保守性だけなく物件売却や売却益の投資家への還元方針を比較することも重要と考えられる。