近年の日本では、医療の充実や生活水準の向上など相まって高齢化が着実に進展しています。高齢者が長生きできるのは素晴らしいことですが、全ての高齢者が元気とは限らず、家族が親の介護で苦労しているケースも多々あります。また、600万人とも推定される認知症患者への対応も大きな課題とされています。
さて、皆さんはご両親に介護が必要となった時、どうしますか。
子どもが自分1人なら面倒を見ざるを得ませんが、兄弟がいる場合は誰が介護の負担を担うのか相談しなくてはなりません。また、介護の先には相続という問題があることを忘れてはいけません。
「争族」の回避策
介護で非常に苦労したにもかかわらず遺産分割は兄弟均等では納得がいかない、逆に実家に無償で住まわせてもらい生活費も親に出させたなどとして、同居して介護した家族に家賃を請求する兄弟がいたりします。
このように親の介護が兄弟間の「争族」の引き金になってしまうことがあります。
今回は「争族」にならないために、介護とそれに続く相続について考えていきしょう。まず、介護を必要とする親の状態を相続人である子どもたちやその家族が十分に理解することが肝要です。
親が亡くなり遺言が出てきた時、不利な内容だった相続人が「この遺言の日付の時には既に認知症を発症していたから無効だ」などと訴えるケースもよくあります。皆さんが介護する立場なら、兄弟に親の状況を的確に知らせておくことが、将来の「争族」防止に役立ちます。
財産はこまめに管理する
親の財産管理を任され預金の出し入れをする場合は、親の預金を何にいくら使ったかをきちんと記録しておくことが大切です。
介護には思わぬ費用が掛かるため、介護期間が長期化すると親の預金が大幅に減少するので、相続後に兄弟から「もっと残高があるはずだ」と責められることもよくある話です。
皆さんが、成年後見人となる場合はもちろん、資金の管理を手伝っている場合には、きちんとした使用明細を記録して、相続発生後に他の兄弟から請求されても、明確な収支を提示できるよう準備しておきましょう。
同居して介護しているからと言って、親の預金を勝手に使うことは慎むべきです。また、相続対策として家族に贈与する場合は、兄弟にも親の意向を伝えて不公平が起きないようにしましょう。
場合によっては、公証人による公正証書遺言を
介護している間に、親が遺言を作成することもよくありますが、それを兄弟に話すべきか悩ましいところです。話せばその場から「争族」になる恐れもありますが、相続後に知らなかった兄弟から同居家族が無理やり有利な遺言を書かせたと思われることもあります。
あくまで遺言は本人の意思で作成し、相続人に知らせる必要はありません。しかし、本人の意思能力が問われる可能性がある場合には、公証人による公正証書遺言を作成することをお勧めします。
自宅の問題は専門家に相談することも
相続で一番問題になるのは、親が住んでいる自宅の処理です。
一人っ子なら問題はありませんが、兄弟の誰かが同居しているケースや、どうしても換金してお金がほしい相続人がいる場合など、話し合いがまとまらないことが多いようです。
これらの解決には不動産や税金の専門的な知識も必要になりますので、税理士などの専門家に入ってもらい、専門家の意見を尊重しながら結論を見出すことが肝要です。
寄与分を優先的に取得できる制度
相続の遺産配分に関しては、介護した人に有利になる制度として寄与分と特別寄与料の制度があります。
寄与分とは、被相続人に対し相続人が扶養義務以上の特別な介護(寄与)をしたことにより、被相続人の財産を維持・増加させた場合に、遺産分割において一定の寄与分を優先的に取得できる制度です。(特別寄与料は相続人以外の人(長男の妻など)が特別な介護(寄与)をした場合の制度)
ただし、親子間の通常の生活支援だけでは認められず、対価を受けていない、一定の期間継続している(1年以上)、片手間でなく専属的な介護であることなど、そしてその結果被相続人の資産が減らなかった額(第三者に介護を頼んだと仮定した費用分)だけが、寄与分となります。ですから、認められないケースも多く、認められても入院・デイサービスなどは介護日数から除かれますので、寄与が認められる範囲は極めて狭いと考えておいた方が、無難でしょう。
相続人全員で事前に話し合いを
最後に、兄弟と「争族」にならないためには、介護を始める前に、相続人全員で介護の負担や相続の仕方なども含めて相談しておくことが最も重要です。親を目の前にして相続問題を切り出すことに気が引ける方は、お墓や仏壇の跡継ぎなど当たり障りのないところから始めましょう。
既に親の預金の使用明細の準備など対策を解説してきましたが、介護期間中にも兄弟には親の体調や資産状況などを知らせておくことも不信感の払拭に繋がります。
介護は子どもの務めですが、1人で頑張り過ぎず、兄弟など親族と協力・協調していくことが、財産と家族の絆の円滑な承継に繋がるのではないでしょうか。