直近の価格動向

J-REIT価格は、上昇のきっかけを掴みにくい状態が続いている。東証REIT指数は11月から安定的な動きとも言えるが、1,700ポイント前後での動きとなっている。

コロナ禍の影響で収益の先行きに対する懸念が広がっている面もあるが、需給面での悪化が価格の停滞要因と考えられる。具体的には、J-REIT価格の上昇は、物流系の増資が続発していることで抑えられていると考えられる。

物流系銘柄は、コロナ禍でもテナント需要の増大によって収益安定性に懸念がない用途となっている。つまり物流系銘柄を筆頭として、他用途に価格上昇の動きが波及することが市場全体の価格上昇に繋がる状態と言える。

しかし3月のコロナショックから6月までJ-REITの増資は休止されていたが、6月にGLP投資法人(証券コード3281)が増資を公表して以降、物流系銘柄の増資が相次いでいる。6月から11月までの6ヶ月間で2019年を超える増資額となっており、需給悪化の懸念から物流系銘柄の価格は7月以降、下落傾向になっている。

ジャパンリアルエステイト投資法人が運用方針を変更

このように価格の停滞状況が続く中、ジャパンリアルエステイト投資法人(証券コード8952、以下JRE)が11月に運用方針の変更を公表した。

JREは、3月のコロナショック前に増資を計画し、前期(2020年9月期)の業績予想は当初、「増資を行った場合」と「中止した場合」の2通りとなっていた。この増資予定は、「需給環境が改善していない」として8月25日に中止が公表されていた。

11月に同社が公表した運用方針の変更点は2点ある。1点目は運用報酬体系、2点目は内部留保の投資家への還元策となっている。

まず運用報酬体系の変更の背景には、コロナ禍によりテナントのオフィス需要変化に対応する必要性が生じたことがある。同社は「既存のポートフォリオの中で、変動するテナントニーズへの対応が難しい物件を売却し、対応可能な物件を取得するという入替えを積極的に行う必要性がある」としている。

このような運用方針の変更に伴い、同社は物件売却損益に対して独立した運用報酬体系を新設した。

具体的には、物件売却損益に対して12.5%を乗じた額(※1)を分配金連動報酬Ⅱとして新設している。また従来から設定している分配金連動報酬Ⅰからは、売却益の影響を除外した。つまり分配金連動報酬Ⅰは、売却益を除外した分配金が増加することが条件となって増加する報酬になっている。

投資家から見れば、売却益による分配金増加分が抑えられる結果になるが、運用会社にインセンティブが働く方式でもあり、今後の売却益計上が期待できそうだ。

次に内部留保の還元方針の変更は、定期的な内部留保の投資家還元となっている。具体的には、期末現在の内部留保残高の1/20を毎期、投資家に還元する(※2)方針を公表した。つまり内部留保は、10年で投資家に還元することになる。

J-REITの内部留保は、合併により生じた負ののれんに関しては50年以内に投資家に還元することが税制上明確化されているが、物件売却益に関しては明確な規定がない。従って大半の銘柄は、「将来的な分配金の安定」という名目だけで投資家への還元方針を明示していない。

不動産売買市場は変動するものであり、売却益が計上できる状況が続くとは限らない。その点で物件売却益の長期的かつ安定的な還元方針を示すことは、投資家の長期投資にも寄与するものであろう。そのような観点からも、筆者は高い評価ができる方針変更であると考えている。
 
※1:売却損益がマイナスになった場合は「0」としている
※2:当期に売却益が発生した場合など、1/20相当としている投資家への還元額を減額する、または行わない場合もあるとしている