米国で増加の続く小売処方薬への支出
米国では保険や病院ケアサービスなど、医療関連への国民の支出が増えており、今後も拡大が見込まれています。米国保健福祉省傘下のメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)は2034年には約9.0兆ドル(GDP比20.6%)と、2024年(5.3兆ドル、同18.0%)からの増加を予想しています。項目別では、糖尿病・肥満の治療薬に関する需要などを背景に小売処方薬への支出が注目されます。2025-2034年における支出は年平均成長率5.7%で増加すると予測されており、医療支出全体の同5.4%を上回る伸びになるとみられています(図表1)。
米国の医薬品卸売市場を寡占している3社とは
患者が処方薬を受け取る場所は主に薬局ですが、製薬会社から医薬品を仕入れて薬局などに供給するのが医薬品卸売業者です。米国ではマケッソン[MCK]、センコア[COR]、カーディナル・ヘルス[CAH]の3社が90%超のシェアを占めており、大規模な物流網や在庫管理能力が求められることから、大手企業が競争上の優位性を築きやすい市場構造となっています。
医薬品卸売業の特徴は、売上高の大きさが必ずしも利益の大きさに直結しないことです。製薬企業によって開発された先発医薬品(ブランド薬)が売上高の大部分を占める一方、後発医薬品(ジェネリック薬)は製薬メーカーに対する価格交渉力を背景に、メーカーからの値引きやリベートなどを通じてより高い粗利益率を確保できる場合があります。このため、売上高に占める割合が比較的小さいジェネリック薬も、卸売企業の収益を支える重要な要素となっています。
近年は、抗体医薬などバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーは、医薬品卸売企業の収益機会として注目されています。特に医療機関で投与される製品では、物流に加えて付帯サービスも提供できるため、利益を押し上げる要因として期待されます。
医薬品卸売企業は利益率が低い一方、医薬品を供給する重要な役割を担っています。米国の医療支出や処方薬需要の拡大に加え、大手企業が有する物流基盤や取扱規模、ジェネリック薬などによる収益機会が事業を支える要因となっています。
マケッソン[MCK]、センコア[COR]、カーディナル・ヘルス[CAH]の業績面での特徴
医薬品の流通を担う3社は、治療に欠かせない医薬品を扱う安定した事業を展開しています。こうした特徴は1株あたり利益(EPS)の成長率にもあらわれています(図表2)。過去10年(各社の会計年度)のEPS成長率をみると、目を引くのはEPS成長率が低い年でも、落ち込み幅が小さいことです。
最も低かった年でも、マケッソンが前年比3.9%減、センコアは同4.6%増、カーディナル・ヘルスが同9.2%減とS&P500種のヘルスケア(同19.3%減)と比べて落ち込みが小幅にとどまっています。成長率の水準でも、中央値についてはマケッソンとセンコアはS&P500種のヘルスケアを上回っています。
ヘルスケアセクター全体では、医薬品や医療機器など多様な事業を営む銘柄が含まれていることから、年によって業績が比較的大きく変動するのに対し、3社は堅調な成長ペースを維持しつつ、事業環境の芳しくない年における落ち込みが抑えられてきたといえます。
市場が3社による寡占状態にあり、特にジェネリック薬では価格交渉力を持つとみられることも、利益の支えになっていると考えられます。米国における小売処方薬への支出の中長期的な成長が続くと予想されるなかで、医薬品卸売企業の業績についても拡大が期待されます。
底堅い成長が見込まれる各社の業績
小売処方薬に対する支出増加が見込まれるなか、医薬品卸売を手掛ける各社の業績は拡大が続くと予想されています。マケッソン、センコア、カーディナル・ヘルスのいずれも2027年末までの各四半期についてEPSが前年比6%を超えて成長すると見込まれています。特にマケッソンに関しては2026年10-12月期以降のすべてで2桁成長が予想されており、予想成長率の高さが目立っています。EPSの堅調な伸びは投資家からの前向きな評価につながるとみられ、株価の支えとして期待されます。
リスク要因として注意しておきたい点は?
各社の実際の収益は、製品構成、仕入先、顧客との取引条件などに左右されます。また、売上高の一定割合を大手薬局チェーンなどに依存している点や、粗利益率が低く、医薬品価格の変化による影響を受け得る点にも注意が必要です。目先は米国における中間選挙を控えて、政治・政策面での先行き不透明感も高まりやすい環境とみられます。地政学リスクの高まりなどを背景に市場心理が不安定化する可能性もあり、留意したいところです。
